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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ648

「この歌が魂に通じれば家族の元に還る気になるだろうな」「私は貴方が戦争に征っても絶対に生きて還るって信じていたから唄うつもりはなかったわ。それでも戦死した人たちには妻の想いを伝えようと思ったの」梢のピアノの伴奏で森山良子の「愛する人に歌わせないで」を唄い終わった。2人だけの体育館で音のない拍手が響いたように感じる。
「お前は南こうせつファンだから『あの人の手紙』かと思ったよ」「あれは最後に夫の魂が旅立ってしまうじゃない。家に還らなくちゃ駄目よ」「なる程・・・」余計な意見でかぐや姫の反戦歌「あの人の手紙」は嫌いで唄わないことがバレてしまった。
「敵の遺骸の埋葬はどうしてるのかね」「予想される戦死者数が1000人を超えますから用地の選定と確保には苦慮しています。当初は市営の運動公園のグランドに施設隊に溝を掘らせて並べて土をかけて仮埋葬する予定でしたが、新潟市が『仮設住宅を建てる予定がある』と回答してきたので断念しました」「現在は12施(第12施設大隊)が大日原演習場の平地に溝を掘って収容した遺骸を並べていますが入り切らないでしょう」夕食後も質疑応答は続いた。この質問には1科と4科の幕僚が答えた。
火葬して遺骨にすれば管理や移送は楽なのだが戦争法では戦死者の遺骸は旧約聖書の教義で最後の審判を受けるまでの肉体の保存を命じているだけでなく停戦後に掘り起こして母国に送り返し、遺族による葬儀と埋葬に供するため土葬と定められている。さらに国際刑事裁判所で見分した国際法学界の意見では「遺骸を鑑定して死因を確認する」と言う現代法医学の目的も加わっているので簡単に変更されそうもない。
「遺骸の埋葬は水田では駄目なんですね」「水田は保水性が高いから遺骸の腐敗が進んでしまって再収容が困難になるんです」「新潟の水田ならダダッ広いから1反でも1000人くらい埋葬できるんだろうけど耕作を再開する前に掘り起こさないといけなくなるからな」この口ぶりではこの問題で本当に苦労しているらしい。
私も旧ユーゴスラビアでスレブレニツァ大虐殺の8000人と言われる犠牲者を占領軍が埋葬し、EUが検証のために発掘した現地を見てきたが、棺を隙間なく並べてもかなりの広さだった。一方、アメリカ軍は日本軍との戦闘においては日本兵の遺骸の埋葬は実施しておらず太平洋諸島には多くの戦没者の遺骨が政府の収容を待っている。激戦地・硫黄島でも遺骨と幽霊には日常的に会うため慣れてしまうと聞いたことがある。
「それにしても新潟にいたロシア軍の大半が北朝鮮軍だとすれば遺骸の収容を含めて日本政府はどう取り扱うつもりなんでしょうか」「形としては傭兵扱いになるのかな。と言っても金で雇われた訳ではないだろうから外人部隊と呼ぶべきか。窓口はロシアになるんだろうけど二度手間なのは確かだ」私はカンボジアPKOやコートジボワール、アフガニスタンの現地調査で日本人と思われる外人部隊の兵士に会ったが、彼らは国籍や本名も不問で入隊していた。つまり戦死すれば所属が抹消されるだけで遺族への通知もない。北朝鮮の将兵がどのような形で派遣されているのかは知らないが、おそらく国王陛下とロシアの大統領との対話の中で何かの取引材料として提供されたのだろう。ウクライナにも多くの北朝鮮軍の兵士がシベリア鉄道に乗って派遣されていたがロシア軍は存在を隠蔽していて戦争犯罪者の公判資料にも登場しなかった。
「停戦が成立すれば在日の団体に遺骸を収容しろって申し渡すのが手っ取り早いな」「また過激な・・・」「やっぱり噂通りですね」私の提案に幕僚たちは妙な反応をした。私が自衛隊を警務幹部の60歳で定年退官して5年弱だが2004年からはオランダに赴任していたので不在だった。おまけに後半は陸上幕僚監部法務官室勤務だったから一般の隊員に会うことは滅多になく噂が残っているはずがない。
「最近、部内のネット上で自衛隊の奇人・モリヤ2佐の言行録のサイトが開設されてるんです」「善通寺にカンボジア、守山に久居と北キボールで一緒に勤務した隊員が書き込むから中々面白いサイトになっています」「特に守山の中隊の訓練や久居の教育内容は戦時に役立つモノばかりで感心しました」意外な説明に私は唖然、梢は大喜びしてしまった。確かに守山時代は自分の中隊をゲリラ部隊に育成しようと攻撃・制圧よりも離脱・逃走の訓練を重視していた。久居の戦争法の教育も必要不可欠だったはずだ。
  1. 2023/10/26(木) 15:33:13|
  2. 夜の連続小説9
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