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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ651

「感激しました。もう一度、スタジオで唄っているのを聴きたいです」「唄っているのはロシアの方ですね。やはり戦争になっているから顔は出せないんでしょうか」「伴奏はないんですか。カラオケで探してもロシア語の『ジュラヴィリー』では見つかりません」エレナが熊毛町のナベ鶴の飛来地の水田で唄ったダゲスタンの詩人・ラスール・ガムザートフの「鶴」の歌は国営放送山口局で放送されると大きな反響を起こし、視聴者からのメール、電話、葉書が殺到した。番組ではエレナの「氏名、居住地は非公開」と言う申し入れに配慮して2羽のナベ鶴の画面のBGMにしていたため視聴者は美しい歌声だけを聴いていた。しかし、人形のナベ鶴の間で水田のドジョウや虫を啄(ついば)む2羽だけでは見応えはなく歌声に聞き惚れるのは当然だった。
「屯田さん、もう一度スタジオで収録した綺麗な音質で美声を聴きたいって言う視聴者からのリクエストが殺到していまして、是非ご協力を願えませんか」「あの美声ならお顔も美しいに違いない。今度は顔も映してもらいたいと言う声もかなり多いです」「ウチの放送を視聴した県外の視聴者が地域を統括する福岡、広島、松山の放送局に投稿したので東京の放送センターにも話が伝わって、特集番組が企画されるかも知れません」数日後、国営放送山口局の企画担当者が先日の現場責任者と下関支局長の3人で豊北町の屯田家を訪ねてきた。屯田局員は仕事柄、エレナの氏名と居住地を非公開にしても連絡先は教えたので早速利用された形だ。屯田家では仕事中の屯田局員と義父に代わって義祖父がエレナに付き添って座敷で3人と面談した。
「私はチェチェン人なので他のロシア人とは交流していません。それに今回のロシアの侵攻は母国で経験した惨劇がこの美しい国で再現されるのではないかと本当に心配していました。だから自衛隊が勝利したことは心から喜んでいますし、多くのロシア兵が死んだことも戦争ならば当然だと考えています。ただ、家族と暮らした母国を離れて異境の地で死ぬ気持ちは母国を捨てた私には心の底から理解できます。だからジュラボリーを唄って魂を連れて帰ってもらいたかったんです」「それなら前回と同様に顔を映さず匿名ならば出演していただけるんですね」現在のマスコミは多くの談話・発言の中で自分たちの主張に利用できる部分だけを抽出して強調するストローマン(藁人形)手法を常用するが、この企画担当者もエレナに用いたようだ。
「嫁はこの間の放送でダゲスタンが故郷の隣りだと言ってしまったことを後悔しています。在日ロシア人は武力侵攻した国の支配者のように振る舞うところがありますから他のロシア人に知られると困るんです。できれば遠慮してもらえませんか」義祖父の補足説明に国営放送の3人は渋い顔を見合わせて小さく首を振った。
「それにしてもあの歌声は素晴らしい。今回のロシアとの武力衝突の特集番組を制作する時にはBGMとして使用したいので収録だけはさせてもらえませんか」簡単には引き下がらないのがマスコミ業界でもジャーナリストの性質だ。渡された名刺に記されている3人の肩書は番組制作担当者のようだが取材記者出身なのかも知れない。それとも執拗なのはマスコミ業界の体質で長年の勤務で染められていても不思議はない。
「「それでも新潟ではロシア人と同じくらいの人数の北朝鮮軍の兵隊たちが死んでいるんでしょう。私は北海道で戦死したロシア兵のためにも唄ったんですが朝鮮の人にも唄わせた方が良いんじゃあないですか」「流石ですね。実は下関支局としても放送センターの意向を聞いて下関市内のコリア・タウンの方に相談してみたんです。すると『是非』と言う方がいました。その方も屯田さんの歌声を聴いて感銘を受けたのと新潟の北朝鮮軍兵士のニュースが重なって唄う機会を探していたそうです」エレナの意見には下関支局長が答えた。この口ぶりではロシア人と半島人の2人がコラボレーションする追悼番組にするつもりだったのではないか。それならば戦死した自衛官の追悼慰霊こそ国営放送の責任だと思うが、マスコミ各社は戦死者を犠牲者と呼ぶことを申し合わせているそうなのでその気はなさそうだ。これも平成の天皇の国家のために身命を捧げた戦没者を国家の戦争犯罪に供じられた生贄と冒涜する認識を踏襲しているらしい。靖国神社も以前から公言している通りに戦没自衛官の合祀の拒否を厚生労働省に通知している。
  1. 2023/10/29(日) 15:37:39|
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