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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ656

「モリヤ検事、統幕の首席法務官室へ来て下さい」国土交通省航空局が中国が提出した大型旅客機100機以上の大編隊の飛行計画を受理し、航空自衛隊に通知した時、私は新潟の事態が終結して市ヶ谷地区への出入が許可されたため警務隊本部で報告文書を確認していた。そこに唐突な呼び出しが入った。
統合幕僚監部と海空幕僚監部には1佐の首席法務官、私の古巣である陸上幕僚監部だけは陸将補の法務官を置いているが、統合幕僚監部の首席法務官の担当職務は組織に関わる訴訟、損害賠償、損失補填などで陸海空幕僚監部の法務業務の統括は含まれていない。
「モリヤ元2佐、入ります」OBとは言え現在の市ヶ谷地区内での単独行動は許されないらしく警務隊本部からは別棟になる統幕の首席法務官室まで警務官の1尉が同行した。1尉は廊下で私がドアをノックして返事を受け、10センチほど開けて自衛隊式に声をかけたのを見届けて帰っていった。統幕の首席法務官室は陸幕時代に担当したイージス護衛艦あまごと漁船の衝突事故の裁判以来だ。
「モリヤ元2佐かァ、確かに伝説の法務官室事務長にはその肩書の方が似合うな」首席法務官室には陸海空の法務官と首席法務官も集まっていた。私が部屋に入ってこちらも自衛隊式に左から右の手でノブを取ってドアを閉め、右向け右、半ば向け右で正対した後、10度の敬礼で決めた私に人物は変わっている陸上幕僚監部の法務官が声をかけた。それにしても自衛隊の入室時の敬礼は最上位者にしなければならないが、呼ばれたのは1佐の統幕の首席法務官なのに陸将補の法務官が同席していて困ってしまった。仕方がないので誰もいない2人の中間位置に敬礼した。
「しかし、国際刑事裁判所でも検察官と呼ばれていたんでしょう」「あっちではプロセキュウター(英語の検察官)でしたから法務省の検察官になっても一向に慣れません。第一日本では弁護士だったので検察官ではロシア軍と呼ばれている気分です」続いて空幕の1等空佐の首席法務官がボケをかました。それでも私のロシア軍の例えに漏れかけた笑いが一気に消えた。ここで統幕の首席法務官がソファーを勧め、私が元2佐として末席に座ろうとすると陸上の法務官の向かいの3番目の席を指定された。そこに海曹のWAVESがコーヒーと洋風の茶菓子を持ってきた。今日も私は作務衣なので元2佐とは判らずWAVESは迷わず3番目にコーヒーを配った。
「今日、モリヤ検察官を呼んだのは新たな事態が発生する可能性が高く、それを合法的に対処する方法について助言を願いしたかったんだ」コーヒーを飲みながらの冒頭の辞はやはり統幕の首席法務官が切り出した。つまり元2等陸佐ではなく国際刑事裁判所で多くの国際紛争の戦争犯罪を担当し、現在は法務省・最高検察庁に籍を置く法曹界関係者としての見解の開陳を期待されているようだ。
「それでは航空から説明します。本日、国土交通省航空局から中華国際航空の大型旅客機110機を宇部山口、広島、岡山空港に着陸させると言うフライトプランが通知されました。目的は国外退去する在日中国人を帰国させるためのチャーター便で国土交通省と外務省は了承したようです」「山口宇部と広島、岡山のエプロンに30機ずつも駐機できるのかね。タクシー(ウェイ)でも給油、搭乗させないと無理だろう」私が元航空自衛隊とは知らない空幕の首席法務官は専門用語をスラスラ並べたことに感心と困惑が入り混じった顔をした。山口宇部空港は防府南基地の航空教育隊で朝霞駐屯地の体育学校に入校した時に利用したが旅客機2機分のエプロンしかなかったはずだ。
「それに往路に部隊を乗せてくれば空港が占拠されてしまう危険性が高い。そこに在日中国人が加われば大部隊が編制できるぞ」頭の中で航空自衛隊と陸上自衛隊が共存している私の状況分析に列席者は半ば驚いたように顔を見合わせた。
「そうなると兵員輸送の確証を得た時点で撃墜するか、着陸後に包囲するしかないが新潟に発令されていた緊急事態宣言は期限切れで撤回されてしまった。つまり警察権の行使を超えた戦闘行動は許されない」「一度外された手枷足枷を再びはめられて、今度の弱腰内閣では何をやるにも横槍が入って身動きできない状態にある」陸幕の法務官の補足説明に各首席法務官は一斉に苦虫を頬張って嚙み砕いたような顔になった。
  1. 2023/11/04(土) 15:08:15|
  2. 夜の連続小説9
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