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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ669

関東空域ではアメリカ空軍第17戦闘飛行隊の30機のFー16の迎撃を受け、繰り返し信号射撃を実施しても怯(ひる)むことなく成田空港に向かっていた中国の大型旅客機の大編隊が突如として変針して伊豆半島を矢印にしたように太平洋上に出た。
「素直に管制空域から出てしまうと米軍としても打つ手がないな」「関空で兵隊を乗せていることがバレましたからね」中央指揮所では野次を飛ばす観客を決め込んでいる官僚たちが航空総隊指揮所からの航跡映像を見ながら戦闘員になり切っていた幕僚長たちの拍子抜けした顔を冷ややかに嘲笑していた。ただ宮谷防衛副大臣だけは安堵したように口元を緩めて深い溜息をついた。
「四国上空の編隊も太平洋に出たぞ」「後は運輸省がどうするかだ」航跡映像では伊豆半島に沿って南下した中国機の大編隊は伊豆大島から御蔵島を回って西に進路を取っている。一方、関西空域に残った半分の編隊は2機を失ったことを確認すると国土交通省の管制からエスケープ(離脱)して太平洋上で編隊を組んで大きく旋回し始めた。どうやら両者は合流して奄美諸島上空を突破して中国に戻るようだ。
「チャイナ・フォーメーション2(中国の第2編隊)は領空を出ました。航空局は誘導を放棄したようです」「戦闘部隊が搭乗しているんだから呼び戻して空港に降ろす訳にはいかんだろう」「ウチに任せれば予定通り強制着陸させるんだがな」「やりますか」航空総隊指揮所からの説明に統合幕僚長と航空幕僚長が雑談風に対話し、陸上幕僚長が冗談でオチをつけた。しかし、間に座っている海上幕僚長は無言で画面を注視していた。
「チャイナ・フォーメーションが合流しました。フォーメーションを組んで西に向かいます」「間もなく探知距離から外れます」四国沖の太平洋空域は和歌山県の串本分屯基地の第5警戒隊、宮崎県の高畑山分屯基地の第13警戒隊、奄美諸島の沖永良部分屯基地の電波の空白を第55警戒隊と土佐清水分屯基地に常駐している移動警戒隊のレーダーで補強しているため探知精度が落ちてしまう。本来であればAWACS を使うべきだがロシア軍に破壊された北海道から日本海側のレーダー・サイトの監視機能を代行している。幸いEー2Dは那覇基地でレーダーの標高が低いため電波が届きにくい尖閣諸島空域の監視に当たっていて予備機を発進させたところだ。それでもターボフロップ機では速度が遅いので探知距離まで接近するのに時間を要する。
「啊!(ギャー=中国語の悲鳴)」「中国機と思われる絶叫を受信しました。1機だけではありません」「航跡は捕捉できません」「太平洋上にエマージェンシー・シンボル(緊急事態信号)が多数点灯しました」「レスキュー・リクエスト(救助要請)は入っていません」中国の大編隊がモニター映像から消失して中央指揮所内が休憩時間になった頃、唐突に航空総隊指揮所から混乱した音声が入った。各幕僚長は交代でトイレに行っていて立ち会ったのは統合幕僚長と海上幕僚長だけだった。
「殺りましたね」「はい、殺りました」統合幕僚長は席を立つと海上幕僚長の耳元に口を近づけてささやき、同じ仕草で答えを返した。中谷防衛副大臣は不在だったがこちらも交代でトイレに行っている官僚たちは奇異な光景を見るような顔で2人を眺めていた。
海上自衛隊の自衛艦隊は石油タンカーを始めとする輸入物資や平時であるため契約に基づいて製造を継続している生産物品を運搬する貨物船の太平洋を横断する船団をアメリカ海軍太平洋艦隊と協同で護衛している。その作戦も長期化して当初は小笠原諸島の沖で各地方隊と対潜哨戒機に引き継いでいたが、現在は目的港まで随伴した後、母港で艦は点検・整備を受け、乗員は休養を取るようになっている。この海域には大阪湾に向かう船団に同行している数隻の護衛艦とアメリカ海軍の軍用艦が行動しているはずだ。
「自衛艦隊司令部からです」「何だ」モニター映像の担当者が切り替えの許可を求めるとトイレのついでに缶コーヒーを飲んできたらしい宮谷防衛副大臣や陸空幕僚長も戻ってきたところだったが何故か海上幕僚長が返事をした。
「アメリカ海軍からの連絡によると嘉手納に展開しているPー8が太平洋方面の中国海軍の艦隊を監視中、艦隊空ミサイルを連続発射して民間機を多数撃墜したのを確認した模様です」これが記者会見で立野官房長官が読み上げる公式発表の下書きだった。
  1. 2023/11/16(木) 14:20:45|
  2. 夜の連続小説9
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