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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ678

「今時、シリンダー錠なんだな。久しぶりだ」高仁智少佐のマンションに立ち入った岡倉は玄関とエレベーターの前に設置されている監視カメラの前では大き目のマスクをはめて眼鏡も昔使っていた太い黒縁に替えた。ところが玄関の鍵はカード式が普及したニューヨークでは見なくなったシリンダー式だった。これでは開錠作業をするのに近眼用の眼鏡では手元が見えず遠近両用に戻さざるを得ない。開錠の作業は陸上自衛隊の△□学校だけでなくイギリスの諜報機関でも教育を受けたがこの錠前なら数分の仕事だ。
シャー・・・。間もなく渡り通路側の曇りガラスに淡いオレンジ色の電灯が点き、シャワーを使い始めた音が聞こえ出した。開錠した後、非常口の外に潜んでいた岡倉は気配を察するとドアを開けて足音もなく中に入った。
韓国ではシャワールームの中にトイレがあるので外は洗濯機が置いてある脱衣場になっていた。脱衣場の床にはスリッパと帰宅して着替えたらしいスウェットの上下に靴下、下着が脱ぎ捨ててある。知愛がシャワーを浴びる時には下着まで畳んで脱衣籠に入れるので同様の経歴を有する高仁智少佐の粗雑さに少し呆れてしまった。
「ルルルル・・・」気持ちが解れてきたのか高仁智少佐の鼻歌が聞こえてきた。最近の韓国の流行歌らしく聞いたことがない曲だ。知愛は寝言でも讃美歌を口ずさむことがあるがアフガニスタンであれ程まで頑ななキリスト教=カソリック絶対主義を主張していた割には精神面の信仰心が身についていないらしい。
ジャブ、ジャブ・・・・岡倉はシャワーの音で髪を洗い始めたのを確認すると小さくドアを開けて催眠ガスのボトルを中に転がして素早く閉めた。すると中で高仁智少佐の「えッ、ムオッ(何?)・・・」と呟き声が聞こえ、数秒で床に崩れ落ちるような音がした。シャワーの湯は身体に降り注いでいるようで床を叩く音はしていない。
「換気扇が何分でガスを排出するかだな」岡倉は脱衣場で裸になりながら腕時計で時間を計り始めた。この時の岡倉の脱ぎ方は手前から着る順番に下着と靴下を置き、ズボンは履く側を上に向けて立て、ワイシャツは前を広げて敷き、ネクタイはスーツのポケットに畳んで仕舞い、出口に靴を置いている。つまり緊急に脱出する時の準備だ。
シャワールームに入ると当然なことながら高仁智少佐が全裸で倒れていた。岡倉は先ずシャワーを止めると改めて知愛の肉体と見比べてしまった。子供を1人出産している知愛と独身で軍人を続けている高由那少佐では乳房や下半身の張りが多少は違うようだ。ただ乳首の色が周囲の肌に近く始めて知愛を抱いて純潔を奪った時を思い出させた。
「さて仕事だ」岡倉はこれも杉本から入手した男性更年期の治療剤を非常口の外で飲んできた薬効で強制的に臨戦態勢にした男性自身にコンドームをはめてイギリスの諜報機関の薬物研究所が開発した女性用性的興奮剤を塗った。女性を性的に興奮させる媚薬は古今東西の上流階級が化学者・薬師(くすし)に研究させていたが、それを実用の薬物として完成させたのはナチス・ドイツだった。ナチス・ドイツは戦争中にも関わらず社交を続ける旧プロシアやオーストリア貴族の女性たちにこれを飲ませ、送り込んだ貴族出身の美男子の軍人たちとの肉体関係に溺れさせることで奴隷化した。岡倉が知愛を抱いた時に杉本が手渡したのはこのナチス・ドイツの性的興奮剤だった。しかし、岡倉は最終的に理性を失わせる薬剤は使わず人間としての愛で知愛の純潔を奪った。
一方、今回はイギリスの研究所のシェリーが開発した新薬剤で麻黄から抽出したエフェドリンの水酸基を除去したペンゼドリンが主成分だ。これが女性器から吸収されると強度の性的興奮状態に陥るらしい。かつてシェリーはイギリスで研修中だった自衛隊の必殺仕事人部隊の塩谷2曹=小弥太を男性用興奮剤の人体実験に使って懲罰として犯されたが今回も利用するつもりらしい。勿論、イギリスでも実験しているはずだが。
スパイ映画の「007」では主人公と女性諜報員の恋愛劇で暗示しているが、実際の諜報活動では性的関係は常套手段だ。それは軍事スパイに限らず日本を含む外交官も性的テクニックを磨き、時には夫に影響力を持つ要人の妻を寝盗って肉欲に溺れさせることも外交手段になっている。だから杉本、岡倉、松本も海外では仕事として街角の売春婦を買ってその国の裏事情を調査してきた。それを浮気や女遊びとは言われたくない。
  1. 2023/11/25(土) 13:26:10|
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