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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ694

「鶴舞は死んだぞ」「えッ・・・」安川1尉は聡美から留守中の生活の説明を聞き終わると稲沢の実家に無事に帰還したことを報告するために電話をかけた。すると電話に出た父が前置き抜きで思いがけない言葉を投げかけた。
聡美から姉の鶴舞が「女優デビューする」と言い残して東京に出て行ったことを聞いて自分が命がけで任務を遂行している間にもアダルト業界は営業していて姉がそれに同調したことはある種の裏切りのように感じた。その姉が突然、死んだとなると原因を知らなければならない。生命を失うような持病はないはずだ。
「どうして・・・何があったんだ」「東京でタンクローリーがガソリンを撒き散らしながら暴走する事件があったのは知ってるか」「新聞は読んでいたから知ってるよ」父の確認に安川1尉は部隊行動を秘匿しながら答えた。群馬県側から前線に弾薬や燃料、食料を届けるトラックは安川1尉が指揮する県境守備隊の検問を受けるため運転手は新聞を手渡してくれていた。切り立った岩山の直下にある宿営地では新潟県側からの電波が途絶えてしまうとテレビは受信できないのでこの新聞と雑誌が唯一の情報源だった。新聞によれば東京都内では首都高速道路や主要幹線を暴走した燃料車が撒き散らしたガソリンに火が点いて大炎上したため路上の自動車だけでなく沿線に建ち並ぶ店舗などにも類焼したはずだ。
「奴等は同じ事件を名古屋でも起こすつもりだったらしいがこっちは警察が喰い止めた」「それは知らなかった」「ところが名古屋の弁護士団体は車両泥棒を制止するのに武器を使って射殺したのは違法だって裁判を起こすつもりらしい」父の話は地元ネタに逸れてしまった。確かに関東圏の新聞では東京での大惨事に全面を使っていて名古屋の事件は小さくも載っていなかった。名古屋の弁護団の偏った法廷闘争については鈴鹿山脈の高圧電線の高所作業中に銃撃を受けて犯人を射殺した岡野3曹の裁判で熟知している。
「それで鶴舞は銀座の大通りを走る車の中でイカガワシイ場面を撮影していて巻き込まれたらしい。炎上した高級車の助手席で遺骸が発見されたそうだ」最高の妻と暮らしていて希望すれば夫婦の営みができる安川1尉にはアダルトDVDを鑑賞する趣味はないが若い営内者がインターネットの有料アダルト・サイトを利用して高額の代金を請求された時、服務指導の参考資料として見せられたことはある。その時は色々な設定と展開を考える製作者の発想の豊かさと演じる女優と衆目環視の中で性器を奮い立たせる男優に感心しただけだった。しかし、別の若い隊員から岐阜分屯地に転地訓練に行って白井聡美と名乗る保育士を演じるAV女優を岐阜の金津園で抱いたと聞いて聡美の旧姓の芸名と実家に近い場所、かつての職業の役柄から姉ではないかと言う疑いを抱いていた。その若い隊員も長岡市内で対人地雷・POM3を作動させて戦死している。姉がその隊員にとって最初の、唯一の女性だったとすれば少しは許すことができる。
「事件からかなり経ってから愛知県警がDNAで鑑定するからサンプルを採取させてくれって言ってきたんだ。お母さんと名古屋の県警本部へ行って口の中の皮膚を取られたよ。それから鶴舞の部屋で髪の毛を拾っていったな」「警視庁は消火に当たっている消防隊員が野次馬の中から銃撃されて負傷したから現場の警備に人員を割かれて初動捜査は完全に出遅れたんだ。タンクローリーがガソリンを撒いたのも1キロや2キロじゃあ済まないから炎上した車両は百台単位じゃあなかっただろう。その中に残っていた遺骸を一体ずつ鑑定していったんだから早い位だ」父の口調がやや不満そうなのを感じた安川1尉は新聞で読んだ情報で警察・警視庁の立場を擁護した。実際、消防の銃撃の危険と隣り合わせの消火活動も対象範囲が長大に過ぎて効果が上がらず、ヘリコプターによる水の散布も頼りの陸上自衛隊は新潟方面に派遣して不在だったので万事が後手に回った。被害の惨状は東京大空襲の再現であり、弾道ミサイルを射ち込み、爆撃機で空襲を加えるのを遥かに超えていた。つまり中国はロシア軍よりも安上がりな方法で絶大な戦果を上げたのだ。
「それで姉貴の遺骨は帰ってきたのか」「担当は警視庁だから中々先に進まなくてな。お母さんはお前も死んでしまったらって怯えていたが無事な声を聞けば少しはm立ち直るだろう。代わるぞ」「和也」父から受話器を受け取ると母は絶叫した。どうやら母は傍で聞いていたらしい。その割には姉の説明=前置きが長かった。
  1. 2023/12/11(月) 15:03:01|
  2. 夜の連続小説9
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