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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ699

「ただいま」「おかえりなさい。今日も市ヶ谷だったの」「うん、古巣に帰るのは楽しいけど仕事がないのはな・・・」相変わらず私は検察官としての仕事がなく市ヶ谷地区の警務隊本部に通って北海道と新潟、呂論島での戦闘を司法警察として国内法で刑事告発する警務隊の提出書類の確認と言うよりも裁判に関する助言を与える雑談で時間を潰している。梢もオランダ時代に比べて活気を失った私を心配していた。
結局、法務省と最高検察庁は領土への侵攻を受ければ当然、防衛出動が発令されて日本国憲法第9条で放棄している戦争状態になり、2項で認められていない交戦権を行使する事態に陥ると考えていたようだ。そうなれば戦闘対応を規定した国内法がない以上、国際法=戦争法を根拠に告訴して公判を維持するしかなく、国際刑事裁判所の次席検察官としてその道に熟練しているはずの私を呼び戻したと言うことらしい。ところが現状は発令権者の石田首相が頑なに拒否したため自衛隊は大幅な制約を受けた治安出動による戦闘を強いられただけでなく停戦後には「違法行為を漏れなく告発する」と弁護士団体が強制起訴(指定弁護士が検察官を務める裁判)の準備を進めている。ならば私は辞職して自衛隊側の弁護士に戻るべきではないだろうか。
「自衛隊が戦闘で敵を殺すのを警察官職務執行法の正当防衛と緊急避難を逸脱しているって告発されたら出動した自衛官は全員が刑事被告人になってしまうよ。ワシは経験者だがな」夕食を終えて横田基地1周の散歩に出ても私の口から出るのはボヤキに似た愚痴が多い。昔、つき合っていた頃も梢には上達しない航空機整備員の仕事と24時間続く曹候苛めの愚痴ばかりを聞かせていたが、話し終わった時に膝立ちになって私の顔を胸に抱き締めると「泣きなさい」と言って号泣させてくれた。そんな情けない私の胸には曹候学生基礎課程の時に聴いた岩崎宏美の「聖母(マドンナ)たちのララバイ」が流れていた。
「佳織、大丈夫かしら」滑走路のサウス・エンド(南端)に差し掛かり、赤と緑のランウェイ・ライトを眺めながら唐突に梢が呟いた。横田基地の滑走路には元義父のノザキヤスト中佐がかつて何度も離着陸した足跡が残っている。ノザキ中佐が佳織の生母の伊藤典子と知り合ったのもこの基地だから何かの暗示を受けたのかも知れない。
「大丈夫って何か気になるニュースがあったのか」「佳織は今日もテレビの報道番組に出演して日本の戦争を解説していたんだけどかなり過激だったの」自衛隊を退役してアメリカに帰化した佳織はハワイの日系人協会の理事に就任したが、その後は佳織の祖父も従軍して戦死した日系人2世部隊・第442戦闘団の第2次世界大戦のヨーロッパ戦線における戦功と多大な犠牲を語りながら同じ東アジアからの移民でも中国系や朝鮮半島系とは祖国に対する忠誠心には格段の違いがあることを強調していた。さらにイギリスのブリティッシュ・ライフ紙がロシア軍に占領されていた新潟での潜入取材を敢行した記者の記事を掲載して戦争の実態が周知されるとアメリカの大手マスコミも追随してテレビ各局は特集番組を放送するようになった。当然、自衛隊の将官だった佳織には出演依頼が殺到しているようで梢はハワイ日系人協会のサイトで出演予定を確認してインターネットで録画してくれている。それにしても退役後も階級章を付けた迷彩服を着用して良いのだろうか。
「アメリカでは日米安保条約が存在していることさえ知らない国民が大半だから関心を引くためには反発を買うくらい過激な発言をするしかないんだろう」「でも日本の研究者が遺伝子解析で新型コロナが中国の細菌兵器である証拠を掴んだのにアメリカの研究者が黙殺したとか、専門外の情報まで暴露していて心配になっちゃったわ」新型コロナ・ウィルスが武漢にある中国人民解放軍の細菌兵器研究所から流出したことはヨーロッパの軍人の間では常識だったが、ジュネーブの世界保健機関=WHOが打ち消しに躍起になるとマスコミでは完全な報道統制が敷かれた。それでも私はモレソウダ首席検察官と相談して細菌兵器の使用ではなく危険物の管理を怠り、春節の海外渡航を制限しなかった重大な過失責任で告発するための研究を個人的に始めていたが、どこからか察知した国際刑事裁判所の上層部に禁止された。それでも後任のハリム・サド・カマドハーン大佐に資料を引き継ぐと非常に興味を持っていたので本来の細菌兵器の使用で告発する可能性はある。佳織が言う日本の研究者が確定した証拠を入手してオランダに送りたくなった。
  1. 2023/12/16(土) 15:46:59|
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