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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ704

「半減速」「半減速」「面(おも)かーじ、いっぱい」「面舵ですか」「面舵だ」韓国漁船団の進路から言えば右から左に横切った高速巡視艇では船長が減速と面舵=右折を命令した。すると舵を握っている操舵手が困惑したように確認してきた。銃撃の危険を察知しての回避行動であれば横切れば次は最大船速か取舵=左折で「三十六計逃げるに如かず」のはずだ。面舵では逆に敵に向かっていくことになる。
敵の進路を遮るのが日本海戦で連合艦隊が採用した「丁字陣形」だが、日清戦争の黄海会戦で伊東祐亨中将は艦隊を縦列で清の巨大戦艦と交差させた。
「面かーじ、いっぱい」操舵手は船長の確信に満ちた返事を聞いて復唱しながら舵を回した。数秒の間を置いて船体が大きく傾き左の窓から見えるほど波飛沫を上げて高速巡視艇は右に曲がった。船体が直って前進を開始すると右の窓からは前方の漁船の甲板で自動小銃を持った3人の乗組員たちが船首から舷側に移動しているのが見えた。
パパパパパ・・・。カン、カン、カン・・・。「来た」「応戦します」「よし、躊躇なくやれ」漁船の乗組員たちは位置を決めると自衛隊で言う膝射ちの姿勢で連射を始めた。銃口が高速度で点滅するように火焔を放ち、水面に水柱が立ち、続いて船橋の壁に弾丸が当たった嫌な音が響き始めた。どうやら漁船の乗組員たちは2001年12月22日に九州南西海沖で北朝鮮の工作船を追跡した巡視船が銃撃を受けた時、小銃弾がガラスを破り、壁にも穴を開けたのを見て「巡視船には防弾性がない」と学習しているようだ。しかし、あれから20年以上が経過しているのだから新造船は言うまでもなく使用している巡視船艇も防弾補強しているのは日本の常識だ。実際に銃撃を受けて乗組員に危険な状態が発生すれば予算を獲得する最高の根拠になる。この高速巡視艇も従来の近海用小型巡視艇では外洋での運用が困難で通常の巡視船の速度では追跡し切れなかったため開発・導入された。だから実際の最高速度は秘匿しているのだ。
「射撃の警告を実施」「了解」船長の指示に通信員はマイクを口元に向けると手元の台本で探した台詞の片仮名を韓国語風に読み上げた。
「バルフルウル・メンチュジャ(発砲を止めろ)・グラチャー・エミャン(さもないと)・チョンギョッ・チュガ(銃撃を加える)」この手順を踏んでいる間に高速巡視艇と漁船はすれ違いそうになった。すれ違ってしまうと前部甲板に設置してある機銃は発射できなくなる。それでも漁船からは発砲を続けてくる。船橋の防弾ガラスに何発も命中してミシミシと圧迫音が聞こえ始めた。
「機銃、射撃準備」「照準は手前の目標のエンジン部に変更しています」「装弾は維持しています」機銃を遠隔操作する機材の前の射手の報告を受けて航海長は船長に「射撃準備よし」と申告した。船長は固い表情で「射て」と低く呟いた。
「機銃、射撃よーい」「射撃よーい」「射て」「射て」パパパパパ・・・。遠隔操作なのでスイッチを押すだけだが号令は銃を使った射撃訓練と変わらない。巡視船に搭載されている6連装の銃身が回転しながら20ミリの銃弾を1分間に数千発発射するバルカン砲に比べれば迫力はないがそれでも漁船から射ってくる5・56ミリ小銃弾の倍以上の口径の機銃の発射音が響いてきた。
「エンジン部に命中」「操舵していた漁民は退避しました」「発火しました」すれ違って機銃の射角から漁船が外れた時点で射撃は終わる。航海長は船橋のドアを開けて甲板に出ると双眼鏡で見える漁船の状況を船長に報告した。
「臨検要員、小銃の用意ができました」「よし、お前たちは後部甲板からすれ違った目標を銃撃する」「あっちは5・56ミリ、こっちは7・62ミリ、射程距離と威力はこっちの方が上です」航海長が船橋に戻ると高速巡視艇は漁船団の後方を迂回する形で反転して再び接近を始めていた。航跡レーダーによれば1隻が破壊された僚船に接舷して乗組員を移乗させているようだが別の8隻は見島に向けて進行を続けている。今度は機銃で射てなくなった目標に64式小銃で仕上げを掛ける戦法だ。海上保安庁でも5・56ミリ弾の89式小銃への更新が始まっているが陸上自衛隊のように持ち歩く訳ではないので現場では「射程距離と威力が勝る64式小銃を維持するべきだ」と言う声も高い。
  1. 2023/12/21(木) 13:09:21|
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