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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ710

中国の漁船は上空を飛行している海上自衛隊のPー1哨戒機に携定式地対空ミサイルを一斉に発射する準備を始めた。一方、これに同調していた韓国海軍の10隻の艦艇も海上保安庁の巡視船がバルカン砲を中国漁船に向けると本性を表した。
「76ミリ砲一斉射撃、目標ヘリ搭載式大型警備船」「照準・・・少し待って下さい」「何をもたついている。日海警(日本の海洋警察=海上保安庁)が同志に発砲してしまうぞ」先頭艦の艦橋で艦長の席に座っているリーダーの下士官は主砲を操作している砲雷科の水兵に罵声を浴びせた。しかし、所詮は反乱を起こした下士官と水兵だけで停泊中の艦艇を強奪しての強行出航なので必要な乗員も揃っておらず、参加者は操舵手と主砲の操作員、機関科の必要最小限の配置だけだった。この砲雷科の水兵も日頃は主砲内で砲弾の装填と排出が仕事なので艦橋の機械を操作するのは砲雷科の学校での教育実習以来だ。しかもレーダー員が不在で航海科の見張り員が口頭で伝える方位を慣れない機械に手動で入力するのは水兵には荷が重過ぎる。
「照準完了、発射用意よし」「取り敢えず射て、連続発射・・・」ズーン。「何だ」ドーン。リーダーの下士官が艦長以上の艦隊司令官の気分で待ちかねた発射命令を口に仕掛けた時、強烈な衝撃が艦体を大きく揺らして艦長席から叩き落とされた。続いて床から突き上げるように爆発が発生した。幸か不幸か艦橋は原形を保って乗員は生存していたが艦体は2つに裂けて後部は急速に海中に水没した。その時、反乱者が艦尾に掲揚していた中国海軍の軍艦旗が最後に沈んでいった。
「ドワジョー(助けてくれ)」「エオムマ(お母さん)」「死にたくない」続いて艦体に流れ込んだ海水の重みで艦首を海面から突き上げて艦橋も後を追うように水没を始めた。艦橋では艦長を務めているリーダーの退艦命令を待つことなく乗員たちが出口に殺到したが、床が直立した上にドアを海水が遮り、絶叫と悲鳴を遺して海の藻屑になった。
「目標1番艦、艦中央に命中」「同2番艦、艦中央に命中」・・・「全て命中、1番2番4番5番7番8番9番10番艦は艦体が2つに分離、急速に沈没しています。3番と6番艦は横転しました」「10隻も戦闘艦がいて1隻も気づかなかったとわな」「回避行動すら取りませんでしたから全て狙い射ちでした」潜水艦・どうりゅうの艦内では潜望鏡で戦果を確認しながらソナー員とレーダー員の報告を聞いていた艦長が砲雷長と副長を兼ねている航海長と戦果を分析し始めた。
「韓国の艦艇はおそらく反乱を起こした下士官以下が停泊中の艦艇を奪って出航したのでしょう。そのためソナー員が確保できなかった可能性があります」「確かに主砲を向けてから発射までヤケに時間が掛かっていた。そうなるとレーダー員もいなかったのかも知れません」戦争ドラマ「コンバット」でもサンダース軍曹が小隊長のヘンリー少尉を差し置いて実質的な指揮を執っていたように「実戦に熟練している下士官がいれば戦闘を実施できる」「余計な指図をする士官将校は足手まといだ」と思われがちだが、実際は客観的な状況判断の上で指揮を執る士官の存在は不可欠なのだ。
「艦長、半分に裂けて急速に沈没した8隻は別として横転した目標3番艦と6番艦は生存者がいる可能性があります。救助はどうしますか」艦長に潜望鏡を譲られた副長の航海長は海面に横倒しになった2隻の艦体が浮いているのを視認して質問してきた。他の8隻は海面に飛散した浮遊物と流出した燃料に火が点いているものの艦体は見当たらず生存者はいそうもない。それでも海上自衛隊の潜水艦乗りには1988年7月22日に潜水艦・なだしおが遊漁船・第1富士丸と衝突して沈没させた事故の記憶が強く深く刻まれている。あの事故ではなだしおが救助のためにゴムボートを取り出すのに手間取ったことをマスコミに「救助よりも艦体の点検を優先した結果」と断定されて国民の批判を扇動された。おまけに瓦力(かわらつとむ)防衛庁長官は記者会見で「原因は明らかになっていない」と謝罪を拒否していた東山収一郎海上幕僚長を制服姿で見舞いに同行させてマスコミに「謝罪した=責任を認めた」と報道された。
「それは海保に任せておけ。仕事が終われば回避行動に移るのが基本だ。急速潜航」「急速潜航」やはり戦時には戦時の行動原則がある。
  1. 2024/01/19(金) 13:01:08|
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