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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ716

「9警(第9警戒隊)CP、こちら上甑・縄瀬鼻監視所、中国漁船の船団が島の北を通過して東側海域に向かっています」「了解、終わり」間もなく上甑島の最北端にある縄瀬鼻灯台の展望所から情報が入り、中山1尉が応答した。これが本業は兵器管制幹部の運用班長が出れば「ラージャ」と英語で答えるところだが教育幹部は陸上自衛隊式だ。
「東側に回ったとなると里港に上陸するつもりでしょうか」「その可能性が高いな」「漁船が全力航行すれば陸路の先遣隊と後続のCHー47は間に合いません」先ほどの第9警戒隊長の指示は甑島群島に向けて飛行中のCHー47だけでなく北熊本駐屯地で傍受している第8師団司令部も了承したが間に合わなければ元も子もない。
「中国漁船はウチには全島に配置するだけの隊員がいないことが判っているのでしょう。陸自がヘリで増援に来ることも見越して先に着上陸できる上甑でも東側を選んだ。陸自のCHー47が近づけば携SAMで射ち落とすつもりです」中山1尉の推理に警戒隊長と運用班長は重苦しい顔を見合わせた。
「上甑の田之尻と長目の浜、射手崎灯台の監視所に命令、各監視所は監視を継続しながら待機要員は小銃で通過する漁船に射撃せよ。射撃方法は連射で可(よし)。航行を阻止しろ」「了解」警戒隊長は運用班長と無言で打ち合わせると中山1尉が持っている警備用回線の無線機を受け取ると呼び出しを省略して命令を与えた。こちらも兵器管制幹部が本業だけに咄嗟に陸上自衛隊式日本語の通話手順が思い出せなかったのかも知れない。すると最初に通過することになる田之尻監視所から返信が入った。
「こちら田之尻監視所、弾薬は弾倉12本と木箱の残り分しかありませんが」「射ち尽くしたら撤退しろ。その時の護身用に各人2本分は残しておけ」返信には無線機を奪い返すようにして中山1尉が答えた。警備隊長である中山1尉に撤退を許可する権限があるのかは微妙な問題だが警戒隊長は無表情に通話を聞いていた。
「そう言えば派遣されてくる陸自は89式小銃だから5・56ミリ弾だぞ。ウチの64式の7・62ミリとは互換性がないじゃあないか」「うん・・・」運用班長の思いがけない指摘に警戒隊長以下の幹部たちは絶句してしまった。
開戦以降、防衛省・陸海空自衛隊は国内の防衛産業に各種装備品の急速な増産と備蓄を発注しているが財務省の予算の示達が後回しになっているので増産分の原材料の外国での調達契約が成立しないため遅々として進んでいない。下甑島でも警備要員の射撃訓練さえも弾薬を節約しなければならず各監視所に弾薬箱1個を配るので精一杯だった。さらに航空自衛隊は大量に消耗する戦闘機用の20ミリバルカン砲の弾薬を優先しなければならず、弾薬メーカーが陸上自衛隊と在日アメリカ軍から発注を受けている5・56ミリ弾の生産に製造能力を傾注するのは当然の成り行きだ。
「分哨長、ここで発砲すれば存在がバレて逆に攻撃されませんかね」「確かに・・・こっちは素人だがあっちは陸軍の兵隊が乗ってるらしいからな」上甑島の北端を挟んで東側に位置する田之尻展望所の監視所では立ち上がって大型望遠鏡を覗いている1名以外の2人は展望所の通路の上に64式小銃の2脚を立てて伏せると雑談を始めた。田之尻観望所からは古代の入り江を海流が運んだ石や砂が塞いだ海鼠(なまこ)池が観光名所だ。中でも池の南にある巨大な人間が頭を挟んで両腕を伸ばして倒れ伏せているような形の岬は奇景で、自然が作った防波堤を歩いてきて観望所から遠望するらしい。
「漁船が来た。10、11、12、13、14隻だ」「それじゃあ射つぞ」「はい・・・でも号令がかからないとタイミングが判りません」「仕方ないな、射撃用意「射撃用意」「射て」バーン。分哨長の空曹は空士の要望に応えて射撃号令をかけた。しかし、分屯基地内での射撃予習から空砲を使った予行演習、そして国分駐屯地の射撃場での本番でも射撃号令は幹部の訓練指揮官がかけるので聞きかじりだった。そのため「単連射3発(連射で3発ごとに引き金を放す)」と言い忘れて2人とも訓練通りに単射で甲板の人間を狙って射ってしまった。然もそれは揃って外れた。
パパパパパ・・・。すると漁船の甲板では乗っている人間たちが慣れた様子で射撃姿勢を取ると正確に連射してきた。おそらく銃口の発射焔を見逃さなかったのだ。
上甑島・海鼠池上甑島の海鼠池
  1. 2024/01/25(木) 14:12:23|
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