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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ718

「貴方が中山元3佐のご子息ですか、お噂はかねがね父上から伺っています」「父がご迷惑をかけています」上甑島で現地に急行した先遣隊が軽MAT=01式軽対戦車誘導弾で中国の漁船団14隻を全滅させた頃、鹿島港に派遣された半数の高機動車は下甑島分屯基地に到着して警備隊長の中山1尉の出迎えを受けた。先遣隊の指揮官は第42即応機動連隊の1尉の中隊長で2尉の小隊長2名を上甑島に向かわせていた。
「軽MATを持ってきたんですね」「地対艦ミサイルは九州本土と五島列島に配備してしまいましたから代用品です」中隊長は相手が隊友会の役員として部隊の行事に毎回参加している中山元3佐の息子と判ると航空自衛隊の素人が01式軽対戦車誘導弾を知っていることにも特別な反応は示さず冗談めかして経緯を説明した。
「湯布院の8連隊(第8対艦ミサイル連隊)が長崎、健軍の5連隊(第5対艦ミサイル連隊)は天草に配置されると聞いていましたが」「8連隊の1個中隊を水機連(水上機動連隊)で福江島に移動させました」中山1尉は下甑島の警備隊長に着任して以降、福江島の副島1尉と陸上自衛隊西部方面隊や海上自衛隊佐世保地方総監部の動向を注視してきた。中でも中山1尉は隊友会の役員を務めている父親が熊本県内に留まらず九州全域の陸海空自衛隊OBに強固な人脈を構築しているだけでなく最近は中山家に限らず自衛隊も世襲化しているので現場レベルの情報にも精通している。
「他にも秘密兵器があるんでしょう」「そうきましたか。実は今回は完成したばかりの試作品の実用試験をやらせてもらいます。ドローンの偵察機です」中隊長は後ろに立っている若い3尉を振り返ると陸曹たちが運んできた金属製の箱の蓋を開けさせた。中山1尉が台湾人義勇隊員の上陸阻止部隊の指揮官である警備職の空曹と覗くとテレビなどで紹介されている農業用の無人ヘリコプター=ドローンよりも数倍の大きさで高精度のカメラが装着されているドローンが収められていた。その時、中山1尉が手で持っている連絡用トランシーバーが呼び出した。
「間もなくCHー47が2機、グランドに着陸すると先遣隊に伝えてくれ」「了解」中山1尉が中隊長に今の話を伝えようとすると東側の空に見えていた4つの黒い点が具体的なヘリコプターの姿になり、エンジン音と2つの回転翼が空気を引き裂く爆音が会話を邪魔するほどになった。これで本隊が到着したが第9警戒隊長=下甑分屯基地司令から上甑島に着陸するように指示された2機もこちらに来ている。上甑島に向かっていた中国の漁船を東側の海岸に到着した先遣隊が全滅させた戦果を上空で確認したらしい。
「CHー47が4機到着しました。2機ずつ交代で着陸するようです」「ラージャ、ウチのグランドの広さでは仕方ない。それから八尻と松島の監視所から現時点で漁船は確認できないと連絡があった」中山1尉がCHー47の到着を指揮所に連絡すると運用班長はついでのように警備情報を伝達した。
「どうやら早速、秘密兵器の実用試験を始めてもらうことになりそうだ。下甑島でも西側北部の2つの監視所が現時点で漁船を視認できないと報告してきた。上甑に到達した時間から考えるとそろそろ姿を見せなければおかしいが・・・」「下甑は全周に漁港が点在しているから選択自由なんだろう。それならドローンで上空から探すのが手っとり早いな」現場指揮官同士で話は決まった。鹿屋基地の海上自衛隊も後続のPー1哨戒機を発進させて捜索に協力していたが、残った中国漁船が想定以上に広範囲に分散して奄美群島まで狙う兆候が見えたためこちらの追跡に任務を切り替えられた。一方、航空自衛隊の無人偵察機・グローバルホークは新潟方面で全機がロシア軍に撃墜された。
「電波が届く範囲に居てくれることを願うよ」「一般のドローンは操縦者が目視できる範囲内に制限されていますが、これは防衛用なので20キロ程度まで飛行可能です」「それでも島の南端まで移動する必要があるな」トランシーバーでドローンの使用許可を取った中山1尉は3尉と陸曹たちのドローンの発進準備を見学しながら中隊長と運用方法を話し合った。3尉が補足説明した一般のドローンの使用範囲は2キロ未満、百メートル単位だが、防衛用の20キロでも領海12海里は22.224キロなので領海をカバーできない。所詮は試作品なので過剰な期待は禁物だ。

  1. 2024/01/27(土) 13:57:32|
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