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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ719

「離陸したCHー47からの情報によると中国漁船は手打に上陸するようだ」「やはり」グランドに着陸して後部ドアから人員と資材を下ろし終えた2機のCHー47が次々に南に向かって舞い上がると中山1尉のトランシーバーに運用班長から連絡が入った。
手打は下甑島の最南端にある比較的大きな集落でドラマや映画になった劇画「Drコトー診療所」のモデルとされる瀬戸上健二郎医師の診療所がある。下甑分屯基地からは下甑島の玄関に当たる長浜港に山道を下り、海岸線沿いを南に向かって断崖から川の水が落下している瀬尾観音三滝を過ぎたところで台地の上に登り、畑の中を突っ切ったところにある。道路での距離は約17・5キロで所要時間は30分程度だ。
「手打の入り江には釣掛埼灯台に監視所を配置しているが通報がなかったと言うことは・・・」「手段は判らんが殺られた可能性が高いな」「手打の集落は無人になっているから銃声や爆発音を聞いても連絡は入らないんだ」運用班長からの連絡を先遣隊の指揮官の中隊長に説明すると感情を交えずに最悪の事態を口にした。中山1尉が上甑島の田之尻監視所で「前方を通過する中国漁船からの銃撃で岩元士長が戦死した」と言う連絡を受けてまだ30分は経過していない。この中隊長の見解を聞いて中山1尉の脳裏に釣掛埼灯台に配置した3名の監視要員の顔が浮かんだ。
「そう言えばアイツらは『灯台の照明台の方が視界が良いから双眼鏡をくれ』と言ってきたんだ」「3人揃って上にいるところを狙撃された可能性が一番高いな」この中隊長は中山1尉が考えたくない部下の死因を淡々と代弁してくれる。
ロシア軍は第2次世界大戦のナチス・ドイツとの祖国防衛戦で狙撃手が腕を競い合い、多くの指揮官が標的になって戦死したことは史実として語り継がれている。一方の中国は蒋介石の国民党軍は第1次世界大戦後に敗れたドイツ軍の将校を雇って軍事指導を受け、対日戦争ではアメリカ軍の軍事顧問の指導によって近代的な軍の体裁は整えていたが毛沢東の共産党軍は寄せ集めた農民にソビエト連邦から供与された武器を持たせただけの素人集団で極めて高度な技術と知識、冷静沈着な判断力を必要とする狙撃手を育成して戦力化したと言う記録は読んだことがない。それでも陸軍の兵隊であれば航空自衛隊以上に射撃訓練に励んでいるはずなので1人や2人くらい狙撃手が紛れ込んでいても不思議はない。そうなると命中率が低い84式自動歩槍=中国製AKー74(弾丸は5.56ミリNATO弾)ではない初公開の専用の狙撃銃を持っている可能性がある。
「それではウチが高機動車で現地に向かうことにしよう」「道案内が必要だろう。ランクルで同行する」離陸したCHー47のうち1機は下甑島の南海上で携帯式地対空ミサイルを警戒しながら監視を続けている。その情報によると漁船14隻は手打の砂浜に着岸して1隻あたり8名の兵士が上陸したと言う。つまり112名1個中隊だ。
「上甑島に向かったカーゴ(軍用トラック)が戻ってこないと折角、到着した本隊が出動できないな」「途中ですれ違ったがかなり急いでいたぞ」中隊長は試作品ドローンの実用試験がなくなって落胆している若い3尉に先遣隊の出動準備を命じると中山1尉のボヤキにもつき合った。確かにカーゴはCHー47が下ろした隊員を乗せて中国漁船が着岸した場所に急行するように命じられていたので下甑島、中甑島、中島を全速力で突っ切ったはずだ。勿論、その前を先遣隊の高機動車2両が暴走していった。
「先遣隊、指揮官以下各車両に10名ずつ、各人小銃と弾薬を携行、MINIMI(5.56ミリ軽機関銃)2丁と弾薬箱10個、携帯用食料3食分、予備の水タンク4個を積載、出発準備完了」若い3尉が01式軽対戦車誘導弾などを下ろしてCHー47が運んできた弾薬箱や携帯用食を積んでいる間に中隊長は本隊の指揮官の3佐と打ち合わせをしていた。そうして準備が完了し、隊員たちが高機動車の前に整列すると報告を受けた。
「これより第9警戒群警備隊上陸阻止隊は陸上自衛隊第42即応機動連隊甑群島派遣隊先遣隊を中国軍が不法上陸したことが確認された手打地区に先導する。ドライバーは植月2曹、射手は上川本3曹、指揮官兼車長は中山1尉だ」先遣隊が乗車を始めた横で警備隊も命令を下達した。車両は陸上自衛隊からもらったM2・12.7ミリ重機関銃を搭載しているパジェロ、運転手と射手は警備職の空曹を選んだ。
  1. 2024/01/28(日) 13:53:16|
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