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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ721

パパパパパ・・・。「グッ・・・」観音三滝の上を通って絶壁に近い斜面に沿った山道を抜ければ平坦で草むらが広がる台地に入る。運転席で植月2曹が「ホッ」と溜息をついた時、パジェロは道路脇の草むらから銃弾の連射を受けた。
後部座席に設置してあるM2重機関銃を立った姿勢で構えていた上川本3曹は銃口を射ってくる位置に向けようとしたが応戦する暇もなく呻き声を漏らして崩れ落ちた。パジェロは防弾ガラスではない上、幌を外しているので上川本3曹は全身を露出していた。勿論、ヘルメットと防弾チョッキは着用していたが至近距離から銃撃されたので胸部を貫通したようだ。中山1尉が振り返ると銃架にすがるように倒れた上川本3曹は背中を痙攣させていた。それを見た植月2曹がアクセルを踏み込むと中山1尉は後続する高機動車の3尉に警報を与え、続いて分屯基地の指揮所に通報した。
パパパパパ・・・、バーン、バーン、パパパパパ・・・。「コシキ2、コシキ2、こちらキタクマ2(北熊本駐屯地の第42即応機動連隊のコールサイン=仮称)、こちらキタクマ2、送れ」「こちらコシキ2、送れ」中山1尉が指揮所への通報を終えるのを待っていたように高機動車の若い3尉から連絡が入った。その前に銃声と手榴弾の爆発音が聞こえてきたから用件は言われなくても想像がつく。
高機動車の車体は防弾になのでパジェロが退避したのを確認して敵が銃撃してきた草むらを機銃掃射したようだ。おまけに手榴弾も投擲したらしい。実は中山1尉もある程度の距離を確保できた時点で助手席から64式小銃を発砲するつもりだったが台地に入っても道路は直線ではなく射界を確保できなかった。その点、高機動車は車体が掩体(えんたい=防護壁)になるので射界清掃として銃弾をバラ撒くには打って付けだ。手榴弾は高機動車側が念を入れたのか、中国軍が投げ損なったのかは後で訊くことにする。
「こちらキタクマ2、そちらの車両を銃撃した敵は掃討しました。これから遺骸を確認しますが逃走する様子がありませんから全滅させた公算が大です」「こちらは1名が死亡した。仇を討ってくれたことになるが待ち伏せするなら全ての経路に配置するはずだ。指揮官の車両も遭遇している可能性が高い。急ごう」「分かりました。捜索は帰りにします」3尉は古参隊員たちが素人扱いする航空自衛隊の中山1尉の意見にも素直に従った。実は一般幹部候補生(部外)課程出身のこの3尉は英語力を買われて健軍駐屯地での台湾人とフィリピン人の義勇隊員の基本教育に当り、先ほど下甑分屯基地で教え子たちと再会を果たしたばかりだった。そこで戦闘員として成長している姿を見て教育に当たった中山1尉にも敬意を抱いているのだ。
「よし、追いついたな。出発」中山1尉と植月2曹が上川本3曹の遺骸を床に横たわらせて毛布をかけている間に高機動車が到着した。甑島群島には大型の野生動物がいないため獣道はできず、人間が分け入った隘路(あいろ=狭い不整地の通路)を踏み固め、さらに馬や牛が引く荷車が轍(わだち=車輪の跡)を付けた道路を舗装しただけで高機動車では車幅ギリギリなのだ。一方、指揮官の車両が通ってくるのは新設された自動車道なのですでに待ち合わせ場所に来ている可能性が高い。それでも銃声や爆発音は聞いていないので無事に到着したのかも知れない
「早速、戦死者1名か・・・」待ち合わせ場所に到着するとやはり指揮官の高機動車は待っていた。中山1尉と後続車の3尉や分屯基地の指揮所との交信を傍受していたようで道路上に隊員を整列させて出迎えた。そして後部座席の床に寝かされている上川本3曹に礼式に則って立て銃からの捧げ銃を実施してくれた。ただし、周囲に存在を露呈する追悼ラッパ「国の鎮め」の吹奏はない。日露戦争でもロシア兵が日本軍の突撃ラッパを覚えて曲が聞こえると機関銃を用意するようになったため吹奏は禁止された。
「分屯地(正しくは分屯基地)にカーゴが戻ったからただちに本隊が来るそうだ。集落の捜索は到着後になる。我々は周囲を固めて移動を阻止するがその前に片野浦に車両斥候を出す」「我々は先ず漁船を破壊しなければならない。それから灯台の監視所を確認したい」「砂浜にはウチの高機動車でいけ。狙撃されれば全滅だぞ」「ジュル・・・」中隊長の温情溢れる提案に中山1尉は胸に迫るものを感じて鼻をすすってしまった。
  1. 2024/01/30(火) 15:44:19|
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