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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ724

「本隊が全滅してしまっては集落の捜索は無理だな。集落に通じている道路に歩哨を配置して監視する以外にできることはないぞ」本隊を乗せてきたカーゴ・トラックは道路脇の森林に隠れていた中国軍に銃撃を浴びせられて路肩に擱座した。そとで漏れた燃料に火を点けられて炎上、重傷を負いながら荷台から逃げた自衛隊員たちは1人ずつ射殺されて逝った。そんな無残な遺骸は車道に並べられて分屯基地の車両が収容に来るのを待っている。ただし、中国軍も自衛隊員の殺戮に熱中している間に包囲されて全滅したので道路の遺骸の列に加えられている。
中国人民解放軍の残虐性は朝鮮戦争で夜間にアメリカ軍の陣地に潜入して寝袋で眠っている兵士たちを銃剣で皆殺しにした戦例で有名になったが、ベトナム戦争でも暗夜に遭遇した人間の顔を掌で掴んで鼻が高ければアメリカ兵として刺殺した。結局、中国人民解放軍にとっては負傷して戦闘能力を喪失していた敵兵=自衛隊員は安心して始末できる殺害対象に過ぎなかったようだ。
「後続部隊はすぐに来るんでしょうか」「高機動車2両は上甑島に向かって中国漁船を全滅させたが空自の歩哨が機能不全に陥っていて撤収できないらしい」長友3尉の質問に対する中隊長の答えに中山1尉は決まりの悪そうな顔を背けた。
上甑島の田之尻展望所と長目の浜展望所の監視所では陸上自衛隊の先遣隊が到着したため01式軽対戦車誘導弾によって海上で漁船団を全滅させることができた。ところが田之尻監視所で歩哨が中国漁船からの銃撃で戦死したのに続き長目の浜でも海上で爆発した漁船の甲板で生きたまま炎に包まれて悶え狂う姿と言葉にならない断末魔を目の当たりにして怯え切ってしまい海面に漂う遺骸と生存者の確認もできない状態だった。
中山1尉は赴任するに当たって下甑島は東シナ海に浮かぶ孤島なので中国に近い最前線と言う覚悟をしてきたが、隊員たちの半数は韓国海軍によってPー1哨戒機が撃墜されて以来の武力衝突や在日中国人による内乱も「本土だけの騒ぎは陸の孤島には関係ない」と言う妙な安心感を抱いていた。どうやら意識改革に失敗したらしい。
一方、西部方面隊は第42即応機動連隊の甑島群島への先発本隊が全滅してしまった以上、熊本空港=高遊原分屯地で待機させている後続部隊を派遣するのが作戦の流れだが、西部方面航空隊のCHー47は現在、主戦場と見ている五島列島の中通島に竹松駐屯地の対馬警備隊を移動させているので即座と言う訳にはいかない。
「集落を包囲するだけなら空自に任せても良いんじゃあないですか。我々は動きがあった時に対処すると言う役割分担が必要だと思います」西部方面隊の内部情報の説明を受けて長友3尉が陸上自衛隊的には分を弁えない意見を述べた。陸上自衛隊では着任時に「3尉には『はい』以外の返事はない」と教育されるほど幹部の間での絶対服従を身につけさせられる。部隊の運用に意見を言うのは「2尉になるまでお預け」なのだ。
「確かにウチの隊員は土地勘があるから監視には適任だろう。警備要員なら上甑のような醜態を晒すことはないはずだ」ここで中山1尉が長友3尉の提案に同調した。上甑島での醜態については第9警戒隊指揮所から何度も聞かされていて面目丸つぶれだった。ここは着任以来、戦闘員として鍛えてきた警備要員で汚名を挽回したいところだ。
「しかし、重大な問題がある」「何だい」「何ですか」中山1尉の賛同を長友3尉の擁護と勘繰ったらしい中隊長が反論すると2人は声を揃えて立場別の返事をした。
「空自には全員分のガスマスクと化学防護衣がないだろう。俺はあまり中国を追い詰めると化学兵器を使うんじゃあないかと危惧している。我々は少なくともガスマスクは常に携帯している・・・ガス」中隊長が説明しながら「ガス」と声をかけると長友3尉は素早くヘルメットを脱ぎ、腰に提げているカバンからガスマスクを取り出して顎から顔にはめ、後頭部のゴムバンドを下げて装着すると鼻と口の通気孔を押さえてマスクの中の空気を吹き出してヘルメットを被った。その所要時間は数秒だった。
「逆にこっちが睡眠ガスを使わせてもらうと助かりますね。そうすれば捜索も安全だ」中隊長の「ガス、終わり」の指示を受けてガスマスクを外した長友3尉は再び身の程知らずな意見を述べた。それでもこれは妙案だったようで中隊長も苦笑してうなずいた。
  1. 2024/02/02(金) 15:44:42|
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