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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ726

「オー、エア・ボーン(空挺)」副島1尉がエプロンに出て見上げると2機のCー130ハーキュリーズ輸送機の側面後部のドアから1名ずつ落下傘降下した。ターミナル内のソファーで休憩していたフィリピン人義勇隊員たちも一緒に出てくると歓声を上げた。
フィリピン陸軍の第1特殊部隊群にも空挺要員がいるが在フィリピン・アメリカ軍が撤退してからは技術指導や訓練支援を受けることができなくなり技量は著しく低下したと言われている。陸軍部隊の駐留再開は2016年からなので最近になってようやく公開展示できるレベルになったようだ。その点、第1空挺団の落下傘降下の技量はアメリカ軍にも引けを取らないからフィリピン人義勇隊員も感激しただろう。それにしてもこれは予定外だ。フィリピン人義勇隊員たちも次々に降下してくる空挺部隊の登場を期待しているが通過して旋回すると着陸態勢に入った。
その間に落下傘降下した2人は滑走路脇の草むらに着地して回転受け身をとった。それを見たフィリピン人義勇隊員たちは「ジュードー」「ウケミー」と叫んで拍手した。やはり日本のために義勇兵を志願する若者はかなり日本通らしい。
「今度は走りながら跳び下りる隠し技の展示か」副島1尉は自分も初めて見る秘技に期待して双眼鏡を目に当てた。事前の説明では滑走路に着陸して後部扉を開き、そこから空挺隊員たちを次々に跳び下りさせた後、そのまま加速して離陸すると言っていたような気がする。尤も副島1尉は福江空港警備隊の指揮官として空港ターミナルに常駐していて航空自衛隊西部航空方面隊や陸上自衛隊西部方面隊、海上自衛隊佐世保地方総監部、そして海上保安庁第7管区海上保安本部からの情報は第15警戒隊指揮所からの伝聞になる。そのため説明する相手が知識を持っていないと「ああ勘違い」になりかねない。
「あんな高速度で走っている輸送機から跳び下りたら空挺隊員でも身体が壊れるぞ」案の定、着陸したCー130は回転しているプロペラの角度を逆にすることで空気の流れを反転させるエンジン・ブレーキを掛けているが速度は中々落ちない。まだ後部扉は開いていないが仮に開いても跳び下りるのは自殺行為に等しい。例え先ほど見せた見事な受け身を取ったとしても固いコンクリートの上では骨の1本や2本は折れるはずだ。
確かにCー130の着陸距離は518メートルで離陸距離は1091メートルなので2000メートルの福江空港の滑走路ならば中央までに停止すればそのまま離陸できる計算になるが、機内の人員や貨物の安全のため実際はもう少し滑走距離を必要とする。
「やっと扉が開いたぞ・・・ここで飛び出してきた」Cー130は滑走路の中央にあるエプロンに入ると停止してから後部扉を開いた。本当は滑走路に着陸して誘導路を走りながら空挺隊員たちを跳び下ろさせるつもりだったのかも知れないが残念ながら福江空港には誘導路がない。そのためなのか空挺隊員たちは階段なしで地上に跳び下りると全力疾走で指揮官の前に整列した。その時、先ほど落下傘降下した2人の隊員が指揮官に「斥候、異常なし」と報告していた。つまり斥候が事前に現地に潜入したようだ。
「・・・見よ落下傘空に降り 見よ落下傘を征く 見よ落下傘空を征く・・・」空挺隊員は空に飛び出す時、恐怖心を感じる精神を遮断する術(すべ)を身につけているので集合して整列することに集中していれば折角の副島1尉の心遣いの部隊歌も耳に入らない。気がついて微笑んだのは指揮官の「休め」の号令がかかってからだった。
「現在、東シナ海上の中国漁船は分散して日本の離島に向かっている。そのため海上の哨戒機は各船団に随伴して監視に当たっているが相手は公海上を航行する漁船なので武器使用の兆候を確認できなければ阻止行動は実施できない。その点、我々はこの島に着岸した以上、領海侵犯と不法侵入を根拠に撃退できる。遠慮なくやれ」劇画などではこの「やれ」に「殺れ」の漢字を当てることが多いが(エロ漫画では「姦れ」になる)特別職国家公務員の自衛官は「やれ」と平仮名のままにしておかなければならない。
「事前に水機連(水上機動連隊)が届けた高機動車と迫撃砲、携MAT(01式軽対戦車誘導弾)、携SAM(91式携帯地対空誘導弾)、弾薬はこちらに集積してあります。もう1つ、この空港の周囲には地雷のクレイモアが設置してありますので夜間の立ち入りは事前に連絡して下さい」空隊隊員たちは副島1尉の説明にも無反応だった。
  1. 2024/02/05(月) 11:56:23|
  2. 夜の連続小説9
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