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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ727

「ここまで広がると指揮機能はどうやって維持しているんでしょうか」海上保安庁の要請を受けて保有するミサイル艇2隻を派遣することになった海上自衛隊佐世保地方総監部では総監への申告に集まった艇長たちがサイレント・ネービー(余計な議論はしない海軍以来の美意識)にしては珍しく率直な疑問を口にした。
東シナ海を日本に向かっていた中国漁船の大船団は五島列島沖のEEZ(経済水域)の境界線付近で海上保安庁の取り締まりを無視すると海上自衛隊のPー1哨戒機の爆雷投下による航行の阻止を受け、これに携SAMで応戦しようとしたため航空自衛隊の戦闘機に攻撃された。この事態に後続の船団は黄海から南に進路を取り、甑群島や屋久島と種子島、奄美大島、徳之島、沖永良部島に向かうゼスチャーを見せている。そのため海上自衛隊は鹿屋基地のPー1哨戒機を次々に発進させて監視に当たっているが、複数の離島に着岸・上陸されれば派遣する地上部隊は確保できない。現時点で自衛隊が配置されているのは基地や分屯基地がある奄美大島と沖永良部島、硫黄島だけだ。
「おそらく中国は海軍や空軍でも指揮統制と言う発想は持っていないんだろう。あるのは艦長やパイロットの『共産党のために』と言う忠誠心への信頼、何をやっても共産党のためで許すのがこれまでのやり方だ」「南シナ海での艦艇や戦闘機の行動は艦隊や上級司令部からの命令じゃあないと・・・」「艦長やパイロットの独断だと言うんですか」防衛部長の見解に2人の艇長が困惑したように反応した。
南シナ海で中国海軍はフィリピンやベトナムが領有を主張している南沙諸島に滑走路や常駐施設を建設したが、その前提として周辺海域の制海・制空権を奪取した。その手段は取り締まりに接近するフィリピン沿岸警備隊の巡視船に進路妨害や衝突を加えただけでなく艦砲を向けてこれが脅しではなくやがて武力行使に至ることを見せつけた。それはこの空域を飛ぶアメリカ軍機に対しても同様で中国軍の戦闘機は航空法を無視して危険な接近を繰り返し、時には進路を遮るように前方に出ることもある。
これに対してアメリカやフィリピンが公式に抗議しても「そちらの挑発行動に対処しただけだ」と答えるだけで再発防止を約束することはない。同様の任務を遂行している艇長たちには戦争に至る危険性が十分にあり得る挑発行為が国家の指揮も受けずに行われていると言う見解には到底納得できなかった。
しかし、中国人民解放軍は1969年3月2日に国境の黒竜江=アムール川の支流であるウスリー川の中州・珍宝島=ダマンスキー島でソビエト連邦軍国境警備隊と軍事衝突した時も同じ展開を見せているので国家=共産党と軍の体質が変わっていない、むしろ増強を続ける海空軍にも拡大していることの証左と見るべきかも知れない。
「我が第3ミサイル艇隊は高速度で中国漁船団の後方に進出して退路を遮断する。海上保安庁が漁船を臨検して武器等を発見すれば攻撃対象になる。後は飛び回るハエを叩くように潰していくだけだ」「自衛艦隊の護衛艦は出ませんか」「法的手続きとしては第7管区海上保安本部が発令中の海上における警備行動に基づいて佐世保地方総監に派遣要請した形だから直轄のミサイル艇隊しか該当しないんだ」「なるほど・・・」防衛部長の説明に艇長2人は深くうなずいた。
これで打ち合わせも終わり2隻のミサイル艇は出動する。中国海警は海軍の巡洋艦の塗装だけを塗り替えて艦砲はそのままの警備船を使っているが戦闘力ではミサイル艇を凌駕するはずだ。おまけにこちらは海上における警備行動における警察権の行使以上の武器使用はできない。さらに現在の上山外務大臣は外交交渉による和解を公言していて海上自衛隊に対する海上における警備行動の取り消しを主張しているらしい。そうなると中国海軍に組み込まれた中国海警の警備船=艦の艦長が「共産党のために」と武器を使用しても抗議すらしてくれそうもない。どうやら先ほど同僚の潜水艦が処理した韓国海軍の脱走兵たちが乗ったコルベット艦の後を追うことになりそうだ。
パーパパッパッパ、パーパパッパッパ・・・「出航用意」艇長は自分のミサイル艇・たかたかに帰るとラッパ手の経験がある海曹に出航ラッパを吹かせた。隣で出航準備にかかっている僚艇・くろたかの乗員たちは手を止めて聞き入っていた。
  1. 2024/02/06(火) 15:22:16|
  2. 夜の連続小説9
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