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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ730

「今日は波が高くて探知精度に欠けるが福江島のサウス50(ノーティカル)マイル付近に漁船が終結しているようだ」「数は」「それもハッキリしないが少なくとも30隻はいると思う」第1空挺団の2個中隊が麓の平井楽集落の小学校と中学校で新たな配置先への移動準備に掛かっている頃、第15警戒隊のオペレーションでは監視小隊のベテラン空曹が対艦ミサイル連隊の若手幹部にコンソール画面を見せながら五島列島周辺海域の状況を説明していた。どうやら海上保安庁や海上自衛隊を翻弄するように東シナ海の北部海域で分散して好き勝手に航行していた中国の漁船が福江島の南方50海里=92.6キロ付近に集結して再び船団を組んでいるらしい。
防空指令所の警戒管制レーダーの映像は各レーダーサイトから送ってくる電波情報の合成だが、レーダーサイトではレーダーが探知した生の映像を見られるので雲の動きや海面の浮遊物などの細部を確認できる。ただし、あくまでも対空用なので海面が荒れて波が高くなるとレーダー波が乱反射して解像度が低下する。
「そうなるとウチも南部へ移動した方が良いのかな」「50マイルからだとオタクが到着してミサイルを設置してる間に着岸しちまうよ。それに相手は漁船だから武器を積んでいることが確認できないと攻撃は御法度なんだろう」「はい・・・」このベテラン空曹は防空指令所で多くの若い兵器管制幹部たちを鍛え、育ててきたので仕事上の会話で丁寧語を使う習慣がない。そのため相手が陸上自衛官でも改めることはなかった。一方の若手幹部は部隊に配属されてからは年齢不相応に敬語を用いられているため実家の父親と話しているような妙な安心感を覚えていた。確かに航空自衛隊の空曹たちは職人的でベテランになると棟梁、親方のような雰囲気を全身から発散している。おそらく陸曹であれば若手でも幹部の意見を否定するような反論を口にすることはないはずだ。
「この集落には酒蔵所があるらしいぞ」「残り物が腐る前に処理してやればお互いの幸せだがな」平井楽集落の中学校では第2中隊が派遣準備にかかっている。数時間前、空港から移動してきて第1中隊が平井楽小学校、第2中隊が平井楽中学校を割り当てられて各教室に寝具や個人の荷物を運び込み、同時進行で平井楽公民館の大隊本部=本部中隊と1中隊、2中隊の間の有線通信回線を構成したばかりだ。天下の第1空挺団の隊員たちは不平不満こそ口にしないが準備の動作は何時になく遅れ気味だった。そこに中隊指揮所にしている職員室の有線端末電話器・JTAーT15が鳴り、受話器を取った永田3佐に伝えられた第15警戒隊指揮所からの情報が空気を一転させた。
「えッ、福江島の南方海域で中国船が船団を組んでいる・・・30隻以上になる模様・・・距離は92キロ程度だから着岸までの所要時間は約2時間・・・」中隊指揮所には副中隊長と訓練幹部を兼務している第1小隊長と中隊先任陸曹しかないないが、第1空挺団では輸送機から真っ先に飛び出して降下する指揮官と隊員には運命共同体としての言葉を超えた精神の共有が存在するので緊張感が一気に走った。
「急がせろ、宿営資材は後で取りに来れば良い。武装を終えれば高機動車の前に集合しろ」第1空挺団が野外に展開すれば天幕を張って仮眠することができれば御(おん)の字だが、今回は屋根と床に水洗便所がついた建物に宿営できるはずだった。そんな楽園のような宿営地を捨てて移動するだけでなくいきなり実戦・本番ときた。
「下甑で42連隊の派遣中隊が全滅したんですか」永田3佐に第15警戒隊指揮所から続々と戦況が届き始めた。甑島群島に派遣された北熊本駐屯地の第42即応機動連隊は現在、長崎県の竹松駐屯地から対馬警備隊を五島列島で最も北にある対岸の中通島に移動させている高遊原分屯地の西部方面航空隊のCHー47で空輸された。
「そうですか、カーゴで移動中に待ち伏せされて銃撃を受けたんですね」永田3佐が話しているのは指揮所に戻った第1大隊長らしい。
「中国漁船は40隻まで膨らんでいるらしい。下甑に上陸した中国軍は1隻あたり8人乗っていたと言うから320人、3個普通科中隊並みの戦力だ」「上陸されれば下甑の二の舞になりかねません。海上で撃滅することを許可して下さい。私の独断でも結構です」永田3佐の意見具申を周囲で聞いていた小隊長と先任陸曹は沈痛な顔を見合せた。
  1. 2024/02/09(金) 15:52:39|
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