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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ734

「ただいま」「お帰りなさい」福生市の自宅マンションに帰ると今日も梢は玄関で迎えてくれた。その場で抱き締めて体温と弾力を確かめると「我が家に戻った」と言う気分になる。勿論、口づけも忘れないがオランダで同居を再開した頃のように濃厚ではない。むしろ額に軽くキス、頬と頬のスキンシップの方が自然な気がしている。それも正式に夫婦になり、人生の伴侶としての安心感を「当たり前」にできたからかも知れない。
「ねェ、貴方が気にしている九州の戦争に動きがあったの」今は作務衣で通勤しているので帰宅しても着替えは必要ないが生活習慣のウガイを終えて食卓に戻ると珍しく梢が自衛隊に関する質問をしてきた。梢は自衛隊を退役して部外者になった私が現在も市ヶ谷地区に出入りしている立場を理解して秘密を漏洩させないように努めている、
「特にないが、何かあったのか」「ううん、ただ今日の横田基地が急に緊張したように感じたから。警備の車も機関銃を積んだジープになってるわ」梢には在日アメリカ軍は日本国内の状況に関わりなく国防総省の指示で警備態勢を強化し、憲兵が拳銃を提げて一般車両のパトロールカーに乗っていれば平時だが、拳銃がライフルになってパトロールカーが武装した高機動車になれば軍事的緊張が起こっていると教えている。
夕食を運んできた梢と一緒に窓際に立って横田基地の夜景を見たが、機関銃を積んだジープは走っておらず軍事的緊張は実感できなかった。食後の散歩で基地の外周沿いを歩けば何かを見つけられる可能性はある。少なくともゲートに立っている歩哨は肩からライフル銃を提げ、警衛所の前には機関銃を積んだジープが停めてあるはずだ。
「そう言えばA日新聞が夕刊に妙な記事を載せていたんだ」梢がお茶を淹れて2人で手を合わせる前に私はテーブルの椅子の後ろに置いておいた新聞を手渡した。受け取った梢は目立つ大見出しを見て顔をしかめた。
「どうやら加倍派を狙い討ちにしてるようだ。ワシはこのやり方は中曽根派を叩き潰した時と共通しているように思う」「ウチじゃあテレビA日のニュースは見ないから知らなかったわ」「10時からの報道バレエティーなら間に合うな」別に見たい訳ではないが散歩から戻って一緒にシャワーを浴びてからの寝酒の晩酌には間に合ってしまう。いつもは梢が録画していた衛星放送の海外のニュースや映画を見るのだが今日は夕刊の記事を映像化した番組を確認しなければならない。
「派閥って民政党にもあったじゃない。自民党の血統書付きだった雀山、軽薄な市民運動出身の缶、それに自衛官の息子の泥鰌(どじょう)、どれも派閥の持ち回りで首相になったんでしょう。お金の問題だって普天間の辺野古移設が決まった時、尾沢一郎は辺野古周辺の土地を買い占めたけどマスコミは問題にしなかったわ」悪夢の政権交代選挙の時は私と梢はまだ再会していなかったが、沖縄に乗り込んだ雀山が「最低でも県外、できれば国外」と空手形を政権公約にしたのには強い怒りを覚えていたようだ。
「民政党には社人党から流れてきた学生運動の活動家もいたから派閥と言うよりもセクトと呼ぶべきかも知れないな。自民党の派閥は所属議員の政治色を反映していて首相を持ち回りにすることで国民は政権が交代したような気分を味わえたんだ。一党独裁で長期政権を維持できたのは派閥のおかげなんだ」唐突に大学時代に学生運動の活動家たちから聞いた左翼の専門用語が出てしまったが梢は聞き流した。セクトと言う英語は日本語に翻訳すると宗派・教派になるので意味を理解したのだろう。
「多分、明日の朝刊と朝のニュースからは全ての新聞とテレビ局がA日新聞に提供された内容を報じ始めて一大政治スキャンダルにするんだな」勝ち誇ったように加倍派の大物議員たちの名前を読み上げて疑惑を説明しているキャスターの顔と声に耐えられなくなった私は梢に録画していた海外のニュースに替えさせた。
「でもこのタイミングでこのスキャンダルを暴露したのは何故かしら」リモコンで番組変更を操作し終えた梢は鋭い指摘を口にした。確かにマスコミは無視を決め込んでいた緒戦に戻ったようにほとんど報道していないがロシア軍の敗退で追い詰められた中国軍が九州と周辺の島々に侵攻してくる可能性が高まっている中、弱腰の石田政権に打撃を与える暴露報道に踏み切った理由が判らない。
や・純名里沙イメージ画像
  1. 2024/02/13(火) 16:03:43|
  2. 夜の連続小説9
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