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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ746

「サクラ、こちらトータス(陸亀・第1航空群の隼人の逆説的コールサイン=仮称)28、日本語で良いな」「大丈夫です。どうぞ」シーガルの呻き声を最後に交信が途絶え、志緒大尉が最近の口癖を呟くと接近していた海上自衛隊鹿屋基地のPー1哨戒機から連絡が入った。このパイロットもサクラ=志緒大尉が日本人なのは知っているようだ。
「そちらのPー8は漁船が発射した携SAMが右主翼に命中して海面に着水した。海面に火炎が確認できるから水没はしていないようだ。岩国の31空群に救助を依頼したからUSー2が来る」トータス28のPー1はシーガルのPー8が撃墜された空域にいるはずだが自分も攻撃を受ける危険性は考えていないようだ。確かにPー1は哨戒機専用の機体として設計されているため旅客機の転用のPー1のような肥満体ではなく運動性は格段に違うから回避行動にも自信があるのだろう。
「傍受していた中国漁船の交信ではシーガルが追っていた駆逐艦が指令を出して射撃させていたようだ。つまり駆逐艦の対空レーダーでの管制射撃だったんだ」「それでトータスは攻撃しないの。我がアメリカ海軍ならネーバル・ジエー隊が攻撃されれば同盟軍として反撃するわ」「・・・」志緒大尉の詰問にトータス28は答えなかった。志緒大尉はシーガルが攻撃を受け始めた時点で嘉手納基地の海軍派遣哨戒隊の指揮所から現在の空域での待機を命じられているが、トータス28は自分にも危険が迫る自衛・自救措置として中国艦と漁船団を攻撃できる位置にいる。
「実はASM(空対艦ミサイル)の発射準備は完了しているんだ。問題は至近距離に駆逐艦がいることだ。ここで軍用艦に命中させれば軍同士の本格的な戦闘になる」事情を説明するトータス28は苦虫を口に入り切れないほど詰め込んで無理に噛み締めているような口調だった。この様子では上層部の指示を待ってのかも知れない。
「ラージャ、実施します」数分の沈黙の後、志緒大尉との交信を切ったトータス28が誰かと会話した。この口ぶりから見て上級司令部からの指示を受けたらしい。実際、トータス28の機長は武装要員に既に17式空対艦誘導弾に入力してある駆逐艦の位置のデーターを再確認させた。これほどの決断を下せるのは中央指揮所の大原防衛大臣だけだ。
大原防衛大臣は自民党内でも有数の保守本流で対中強硬派だが派閥は加倍派ではなく、東京でマスコミが沸き立たせている加倍派壊滅報道の標的にはなっていない。ただし、宮谷防衛副大臣は加倍派所属だ。大原防衛大臣としては現在の石田内閣では数少ない防衛問題に関する理解者で国際常識に則った対応を強力に掩護してくれている立野官房長官と共に片腕と頼む宮谷防衛副大臣が凶風に晒されていることは赦し難い政治的謀略だが、今回は立野官房長官の調整機能が滞っていることを利用して独断で中国海軍の駆逐艦に対する攻撃を決断した。後始末は上山外務大臣に丸投げだ。
「サクラ、トータス28が離脱すればアメリカ海軍と名乗って編隊を組め。本来であればシーガルがやるべき仕事だったんだ。感謝を込めて護衛しろ」「ラージャ、シーガルは」「ネーバル・ジエー隊のUSー2が攻撃と同時に着水して救助を開始した。安心しろ」急降下して探知高度を切ったのかトータス28が対空レーダーから消えた。そこに嘉手納の海軍派遣哨戒隊指揮所から指示が入った。岩国基地から飛来した海上自衛隊のUSー2救難飛行艇はトータス28が駆逐艦を攻撃して脅威が消えるまで上空で待機していたようだ。どこまでも仕事には万全を期している。
「ジャパン・マリタイム・セルフ・ディフェンス・フォース(海上自衛隊)・トータス28、ディス・イズ・ユナイテッド・ステーツ・ネービー(アメリカ海軍)・パングボーン(1931年に三沢を離陸して太平洋無着陸横断に成功したミス・ビードル号の機長・三沢基地の哨戒飛行隊のコールサイン=仮称)06。貴方をエスコートするために接近する」「ラージャ、アイ・アム・コンプリート・アタック(攻撃完了)。キル・ザ・ターゲット(目標は撃沈した)」「ラージャ」トータス28の機長は誇らしげに戦果を説明したが志緒大尉は日本海でロシア艦隊を撃沈させたことがある。あの時は多くの人命を奪った罪の意識に苛(さいな)まれて僧侶である父に救いを求めた。この機長は武人として自分の戦果に歓喜しているのかも知れないが志緒大尉とは人種が違うようだ。
  1. 2024/02/25(日) 14:11:57|
  2. 夜の連続小説9
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