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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ750

「中国海軍がポセイドン(アメリカ海軍のPー8哨戒機の愛称)を撃墜したぞ」「漁船を監視しているPー1と誤認したようです。バンダリー(境界線)上空で待機しているPー8が報復するでしょう」台湾海峡の金門島の台湾軍の施設で中国軍の交信を傍受している本間郁子は事態の推移を注視していた。今朝、福州基地を出航した東海艦隊の駆逐艦は半日かけて東シナ海を北上すると沖永良部島付近で南下してきた漁船団と合流した。その時から駆逐艦が漁船団を監視している海上自衛隊のPー1哨戒機の位置を携帯電話で通知していたことは確認している。ところが漁船団が3つに分かれて奄美大島、徳之島、沖永良部島に向かったためPー1も3機になり、そこに駆逐艦を追跡してきたPー8が加わって練度が低いレーダー員は混乱してしまったようだ。実際、駆逐艦のレーダー員は漁船の甲板で携帯式SAMの発射準備を始めた乗組員たちに最も近い目標としてPー8を指示していた。その結果、5隻が連続発射して5発目が命中した。
「おい、これはPー1じゃあないか。海上自衛隊が中国艦を攻撃するのか」「その前にPー8の女性パイロットが『同盟軍なら攻撃しろ』と詰め寄っていましたから日本男児としての沽券に関わるって思ったのかも知れません」長貞治(チャン・チャンヂー)中佐が交信者の記録から攻撃態勢に入った哨戒機がアメリカ海軍のPー8ではなく海上自衛隊のPー1なのを知り驚愕したような声を出した。すると本間は冷静に答えた。しかし、本間の夫の杉本や同僚の岡倉に松本を見ていてもあの程度の挑発に乗って武力行使に踏み切るほど単純ではない。おそらく上級司令部の攻撃命令を受けたのだ。
「駆逐艦では対空火器は艦砲くらいしかないだろう。日本のASMの餌食だな」「蘭州級や南昌級なら駆逐艦でも艦隊空ミサイルを搭載していますがそれでも日本の17式には敵いません」長中佐の中国海軍に関する知識はあまり更新されていないようで中国海軍が2004年から配備した7000トンの蘭州級駆逐艦に始まり、2020年から建造と配備を進めている最新鋭の南昌級駆逐艦は1万トンを超える大型艦であり、艦橋にはイージス艦を思わせるフェーズドアレイ・レーダーを装備して艦対空と艦対艦を兼ねたミサイルと火器管制装置を搭載している。尤も中国海軍は海上自衛隊が全ての戦闘艦を分類せずに「護衛艦」で統一していることを「姑息な軍事情報の隠蔽」と主張しているのでそれを模倣しているのかも知れない。
「音声が入らなくなったな」「攻撃を開始したのでしょう。駆逐艦が漁船に退避を命じています」夜間に入って無線の雑音が減り、奄美群島でも南方の海域で発信されている通話も比較的鮮明に傍受できている。先ほどまで入っていた西部航空方面隊と南西航空方面隊のバンダリー上空のPー8と沖永良部島付近を飛行するPー1のパイロット同士の日本語の会話が途絶え、間もなく携帯電話の周波数の無線機から北京語の「タオパオ(逃げろ)」と言う叫び声が聞こえ始めた。さらに漁船の乗組員と思われる男たちの「タオパオ」「バンウワァ(助けてくれ)」と言う焦った絶叫が続いた。
「ナマンダブ、ナマンダブ、ナマンダブ・・・」空対艦ミサイルで駆逐艦を仕留めた後、漁船団も爆雷で全滅させたくらいの時間が経過すると航空無線の周波数の無線機から低い念佛が聞こえてきた。おそらくPー1のパイロットがたった今殺したばかりの中国軍の兵員たちを弔っているのだ。
昭和の時代の僧侶たちは従軍経験を持ち、銃弾が飛び交う戦場で加護を願って読経し、銃で狙って殺した敵兵を弔うために念佛を唱えた。そのような真摯な信仰心が敗戦後の混乱の中でも檀家や門徒たちを寺に引き寄せていた。本間もこのパイロットの念佛が幼い頃、家の法事で住職と一緒に唱えていた念佛に重なり、無意識に手を合わせて低く「南無阿弥陀佛」と呟き始めた。そんな様子を長中佐は感心したように見ていた。
「本日20時15分、海上自衛隊のPー1が沖永良部島の西方海上でアメリカ海軍機を撃墜した中国海軍の駆逐艦と漁船団を攻撃しました」「そうか・・・こちらでも航空自衛隊のレーダーで確認している」本間はバンダリーの北方空域で遭遇したPー8とPー1のパイロットのあまり親しいとは思えない会話が終わると市ヶ谷地区の統合幕僚監部に連絡した。これは単なる仕事上のホウレンソウ(報告・連絡・相談)だった。
  1. 2024/02/29(木) 15:06:19|
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