fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ754

「海軍機を撃墜したと言うことは中国は我が国との戦争を望んでいるんですね」「撃墜したのは中国の漁船であって軍用艦ではありません。したがって国家意思として攻撃したと断定するのは早計です」「どうして漁船にチャイニーズ・スティンガーを載せているんだ。攻撃意図があったことは明白だろう」海軍省のスポークスマン=広報官のWAVES(女性の海軍軍人)の中佐はアメリカ人記者の挑発的な質問に慎重に回答したが、記者席から追い討ちが掛かった。声の主は松本だった。  
「確かに漁船に兵器を載せていることは極めて異常な事態ですが、それが我が海軍との戦闘を目的としているとは断定できません」「昨日、中国の漁船は日本の離島に上陸してアーミー(陸軍)のソールジャー(兵士)を100人以上殺害しているんだ。同盟国である日本に侵略する以上、アメリカとの戦争も企図していると考えるのが常識じゃあないか」在アメリカの雑誌社の記者の肩書で出席している松本は周囲のアメリカ人の記者たちに日本人であることを疑われないように最近は国際軍事用語になっている「ジエー隊」を使わなかった。確かに松本が空曹時代に中東へ派遣されて航空自衛隊の輸送機への搭乗手続きを担当した頃には日本のマスコミがいる時にだけ「ジャパン・エア・セルフ・ディフェンス・フォース」若しくは「JASDF」と直訳で名乗り、普段は「ジャパン・エアフォース(日本空軍)」で通していた。ところが自衛隊の海外派遣が常態化すると軍ではない防衛組織の自衛隊と言う立場に関心を持った外国軍の軍人たちが冷やかし半分に「ジエー隊」と呼ぶようになり、それが普及・定着したのだ。
「昨日、中国は100隻を超える漁船に兵士を乗せて日本の九州に侵攻していました。それをジャパンのコースト・ガード(沿岸警備隊=海上保安庁)とネーバル・ジエー隊(海上自衛隊)が阻止していた。したがって我が海軍のポセイドンを撃墜したのはネーバル・ジエー隊機と誤射した可能性が高いのです」スポークスマンとしては米中開戦、全面戦争の切っ掛けになりかねないPー8哨戒機の撃墜をあくまでも事故に準ずる不測自体にしたいようだ。それが上層部の意向なのかは判らない。
「しかし、漁船は中国海軍の駆逐艦の指揮を受けていたと言うイギリスBBCの報道がありますが」「中国海軍の軍用艦が漁船団と接触していたのは事実です。チャイニーズ・スティンガーでは夜間の目視照準は困難なので軍用艦のレーダーによる指揮統制を受けていたと考えるのが常識です。ただし、あくまでも目標はネーバル・ジエー隊のPー1だったと思われます」イギリス英語の記者の追及にもスポークスマンは回避行動を続ける。海軍だけに航海科士官なのかも知れない。
「それでもPー8が撃墜されて報復したのはネーバル・ジエー隊のPー1だったと言う情報もあります。やはりアメリカ海軍機が狙われたんじゃあないですか」今度は隣の席の間宮リンゾーが爆雷を投下した。スポークスマンもネーバル・ジエー隊と呼んでいるので問題はないがアメリカでの知名度が低いPー1の機種名をスラスラと口にしたのは未熟さの証左だ。案の定、周囲の記者たちは「Pー1」と囁き合ってから1人が振り返って間宮リンゾーに確認してきた。どうせなら数字の「1」に引っ掛けて「イッシキリクコー(1式陸攻)」とでも呼べば面白かった。
「USネービーとネーバル・ジエー隊は世界で最も強固な共同運用態勢を構築していて事実上一体化しているんです。仮にネーバル・ジエー隊機が報復したとすれば日米海軍で共有しているROE(交戦規定)に基づく措置だと思われます」ここでスポークスマンは口を滑らせた。平和憲法の下で行動することを義務づけられている海上自衛隊が常に臨戦態勢にあるアメリカ海軍と作戦規定を共有することなど有り得ない。幸いなことに日本のマスコミは記事を送っても編集部が受け付けないので取材には来ておらず、気づいたのは松本と間宮リンゾーだけだった。
「それではアメリカ海軍、当然ペンタゴン(国防総省)も今回の中国の行動は侵略だと認識しているんですね」「私は軍人ですから政治的なコメントを述べる立場ではありません。しかし、海軍中佐の個人的見解としては『今回の事態は侵略だ』と言う軍事的定義を紹介しなければなりません」最後の言葉を吐いてスポークスマンは唇を咬んだ。
  1. 2024/03/04(月) 14:16:04|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<続・振り向けばイエスタディ755 | ホーム | 3月3日・「桃の節句」雛人形の雑知識>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8982-2a477a1d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)