fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ757

「島村(岡倉の偽名)、君はハワイ日系人協会理事のフォーマー・ジェネラル(元将軍)と親交はないのか」ノザキ佳織元将補がアメリカ本土のテレビのインタビュー番組に出演して中国による武力行使や内乱の扇動を告発するようになった頃、国務省で情報収集に当たっていた岡倉にアジア局の友人が妙な表情で訊いてきた。
岡倉もノザキ元将補の最近の活躍を受けて国務省や国防総省で同様の確認を受けることが増えてきたが、あくまでも業務上の遣り取りとして受け答えしている。中にはノザキ元将補の美貌を褒めて「知り合いならば紹介しろ」と言う者もいるが冗談の範疇だ。ところがこの友人の表情には困惑と心配の奥に下卑た好奇心が垣間見える。
「初めて言うが昔からの知り合いなんだ」「昔って言うと・・・」「彼女が20歳代だった頃だな。でも30歳代になってからは音信不通になってしまったよ」岡倉の説明は期待させて落胆させる日本式お笑い芸なのだがアメリカ人の友人はそのまま落胆した。
「それでも連絡を取れば面談には応じてくれるだろう」「俺としては連絡したくないんだが業務としてなら考えないことはないぞ」相手の本業は外交官なのでここは交渉を持ち込んだ。実際、身分を秘匿どころか捏造して活動している岡倉とすれば素性を熟知しているノザキ元将補と接触することは絶対に避けなければならない禁止事項だ。
「実はウチのボス、政治担当次官が彼女にエラク興味を持っていてアジア局長に人脈はないかと訊いてきたんだ。それで日本大使館を通じて防衛駐在官に問い合わせたんだが、名前くらいは知っていても面識はないと言う回答だった。それでハワイの日系人協会にも紹介しようとしているところに君が来たんだ」「政治担当次官と言えば国務省ではナンバー4だろう。そんなエライさんが幾ら陸上自衛隊の元将軍でも彼女に関心を持つなんて意外だな」岡倉の感想に友人は困ったように笑うと顔を近づけてきた。吐息には仕事中に咬んでいたらしい禁煙ガムのニコチンの臭いがした。
「ここだけの話だぞ。次官は若い頃、在日大使館で勤務していたことがあってそこで日本のテレビドラマを楽しんだらしい」最初の念押しはこの説明が非公式な秘密指定を受けることを意味している。現在の政治担当次官は岡倉よりも何歳か年長の同世代なので見ていた番組も共通しているはずだ。そうなると個人的に興味が湧いた。
「特にサムラーイ・ドラマ(時代劇)が気に入って仕事中も日本史の勉強と称して見ていたらしい」確かに岡倉が大学生だった昭和には昼の時間帯には主婦向けの大奥を描いたメロドラマ、深夜にも必殺シリーズや大江戸捜査網などが再放送されていた。岡倉も両親が事故死して一人住まいになった家で熱心に見た覚えがある。特に必殺シリーズで仕事人の人を殺す時の一切の感情を交えない凍りついたような表情は現在の職務について何度か経験した実技で自分も浮かべているような気がしている。
「だからノザキ元将軍がテレビに出始めた頃、着ていた黒い和服姿に胸が時めいて是非会ってみたいと思ったんだそうだ」ここまでであれば初老の男性が抱いた仄(ほの)かな恋心のメルヘンなのだが話には極めてアメリカ的な続きがあった。
「日本のサムラーイ・ドラマには女性のキモノ・バンド(和服の帯)を引っ張って独楽のように回転させて脱がすシーンがあるのかい」「歴史的に事実かどうかは知らないが時代劇にそう言う場面があるのは確かだな。主に女性をレイプする場面だ」説明しながら岡倉は若い頃に見た時代劇でも必殺シリーズで、若い女性が騙されて連れ込まれた屋敷や宿で性行為を強要されて「お止め下さい」と拒否して逃げようと立ち上がった背中の帯を男が掴み、力任せに引っ張ると「嫌、嫌、アレー・・・」と言いながら独楽のように回転して腕の中に収まってしまう場面を思い出した。
「まさかノザキ佳織に和服を着せて同じことをやってみたいと・・・」「次官も流石に60歳に近づいてそこまでの精力はないよ。和服を着た美女と食事をして若い頃の思い出を語りたいだけだろう」岡倉の頭の中で独楽のように回転する女性がノザキ元将補になって再放送された。しかし、あの役は若い娘でなければ似合わない。
「政務担当次官はアメリカ外交の実務を指揮しているから親密になることはノザキ元将軍にとっても有益なはずだ。勿論、日本にも」岡倉は掟を破って連絡を取ることを決めた。
  1. 2024/03/07(木) 14:54:35|
  2. 夜の連続小説9
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<続・振り向けばイエスタディ758 | ホーム | 3月7日・日本史上初の女帝・推古天皇が崩御した。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/8988-0572d122
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)