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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ761

「ノザキ将軍、和服姿は格段と美しい。無理をお願いした甲斐がありました」「これは日本民族の芸術的エッセンス(精華)です」次の週にノザキ元将補はBBCのイギリス軍の在アメリカ駐在武官との対談インタビューの取材を受けることになり岡倉はアジア局の友人と会食を設定した。今回はニューヨークの高級ホテルのレストランだ。
現在、国際連合安全保障理事会でアメリカは北海道に続いて新潟でも敗北したロシアに対して中国が参戦の継続を要求しているのを静観・黙視している。やはり国内の中国系移民団体の政治的圧力は鎮静化したように見えても実態は暗躍しているのだ。
「気が利くな。コースは地中海の魚料理だがライスが出ている。おまけに酒は日本酒だ」今回、岡倉はニューヨークでも最高級の日本食レストランを提案したがアジア局の友人が勝手にホテルのレストランを予約していた。そこで仕方なくレストランに掛け合って地中海の魚料理のコースと日本酒を用意させた。
「日本人はライスを主食としますからオカズは和洋中の何でも好いんです」「確かにそうだった」乾杯を終えたノザキ元将補の説明に政治担当次官は日本語で返事をしてワイン・グラスの日本酒を美味そうに飲み干した。するとウェイターが間を置かずに歩み寄り、2人のグラスに濃い緑色のガラス製の5合瓶から日本酒を注いだ。
「やはり酒は温めの燗が好いな」「それって歌ですか」「うん、八代亜紀の舟唄だ。彼女はエンカ・シンガー(演歌歌手)なのに和服を着ないのが残念だったが、胸に染みるような歌声だった」「2023年12月30日に亡くなりました」「それでは彼女のためにもう一度乾杯しよう」政治担当次官の提案に2人は黙ってグラスを掲げてから再び飲み干した。それにしても政治担当次官の日本通は想像以上のレベルだ。
「次官は日本で勤務しておられたとか。私の父も空軍の輸送機パイロットとして太平洋路線も飛んでいましたが横田まで利用したことはありませんか」「横田から嘉手納まで日系人パイロットの輸送機に乗ったような記憶はあるが太平洋の往復は民間旅客機だったから確かではないな」政治担当次官の年齢から言うと大学を卒業して国務省に入省した最初の任地が日本だったとすれば40年弱前になり、ノザキ元将補は帰国して神戸のインターナショナル中学・高校に通っていた頃だ。一方、ノザキ中佐はまだ現役だったが定期便ではなく大型輸送機の特別便で世界各国を不定期に飛んでいた。したがって横田基地から嘉手納基地まで飛行したのは別の日系(アジア)人パイロットだろう。
「日本酒の酔いは心地好いな。八代亜紀で和服美人とダンスを踊りたい気分だ。シャル・ウィ・ダンス(踊りませんか)」「光栄です。イエス・レッツ(お受けします)」返事を聞いて政治担当次官は立ち上がると円形のテーブルを回り、座って待っているノザキ元将補の両手を取った。そうして立ち上がったノザキ元将補の帯の重太鼓結びに手をかけてテーブルとテーブルの間の広めのスペースに誘(いざな)った。アメリカのレストランでは客がダンスを始めることは珍しくないのでこのような配置になっている。
「BGMはないから私の下手な唄で許してくれ」「どうぞ」「お酒は温めの燗で好い。肴は炙ったイカで好い、女は素敵な君が好い・・・」意外に流暢な日本語で唄い始めたが、途中で替え歌を入れる離れ業も使ってきた。ノザキ元将補もこの歌は前川原の同期会で九州出身の同期たちが熱唱していたので憶えている。ダンスの方はステップもなく胸に寄り添っての(いわゆる)チーク・ダンスなので「しみじみ飲めばしみじみと」からはデュエットになった。すると政治担当次官は声量を下げてリズムを合わせてきた。
「沖のカモメに深酒させて 愛しあの娘とネ朝寝する ダンチョネ」最後のダンチョネ節は2人揃って立ち止まり、顔を見つめ合って合唱した。前川原の同期たちは本来は神奈川県の三浦半島付近の船頭の愛唱歌だったダンチョネ節に戦時中の飛行機乗りたちが歌詞を付けた軍歌バージョンで唄っていたが、モリヤ候補生は「暗過ぎる」と言って歌詞通りに唄っていたのでどちらも憶えることができた。軍歌バージョンでは「沖のカモメと飛行機乗りは 何処で散るやらネ果てるやら ダンチョネ」と言う歌詞があるが、実際に航空自衛隊で戦闘機の墜落とパイロットの殉職を何度も目の当たりにしてきたモリヤ候補生には単なる粋がりでは済まされない重みがあったようだ。
ん・鈴木京香イメージ画像
  1. 2024/03/11(月) 15:23:56|
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