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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ769

「副島1尉、ヘリコプターが1機、緊急着陸を要請している」福江空港の警備隊長として市街地全域の巡回・警備も指揮している副島1尉に福江分屯基地の第15警戒隊指揮所の運用班長から無線連絡が入った。福江空港の国土交通省航空局は全島民の九州本土への避難が完了して空港が閉鎖されると早々に航空自衛隊に明け渡している。そのため管制塔も機能停止していて先ほどのCー130は警戒隊監視小隊の兵器管制幹部がGCIアプローチとして空港に誘導してパイロットが目視で着陸した。今回もヘリコプターのパイロットが航空無線で通報してきたようだ。
「どこのヘリだ」「飛行プランによれば福岡空港を発進して東シナ海に向かうことになっているA日新聞の取材ヘリが唐突に進路を変更したらしい」「それは日本海で陸自の13飛(第13飛行隊)の阻止行動を妨害した奴だな」「そのようだ」運用班長の過剰な説明に副島1尉が反応して前置きが長くなってしまった。
「緊急着陸する理由は何だって」「銃撃を受けてエンジンを損傷したそうだ。ローターの回転数が落ちて高度が維持できないと言っている」パイロットもA日新聞の社員なので「中国の漁船から」とは言っていないようだ。下手すれば「自衛隊の銃撃の流れ弾が当たったのかも知れない」と虚偽の説明を弄しかねない。
「空港まで辿り着くのが精一杯だから滑走路のどこに降りるか判らないそうだ」「それじゃあ中国軍の協力者として捕虜にすれば良いんだな」「それは拙い。少なくとも民間人として保護してくれ」副島1尉としては五島列島から西に200海里に引かれているEEZ(排他的経済水域)の境界線付近で航空自衛隊の戦闘機の銃撃を受けて蜘蛛の子を散らすように東シナ海上を逃走していた中国の漁船が福江島の南で集結して編成を取り、上陸を試みた侵略行動の説明を受けている以上、A日新聞の取材ヘリコプターが日本海と同様に妨害行為を働いたとすれば敵対者と考えるのが当然だった。
「少なくとも銃を突きつけて身体検査は実施するぞ。空港の消防車を借りるから承知してくれ」「確かに必要な措置だ」教育幹部の得意技と言うよりも常套手段に近い「ハッタリ」を警戒していた運用班長は意外に常識的なオチに拍子抜けしたように同意した。
「こちらパト1号、民間のヘリが1機、ふらつきながら大浜の上空を通過していきます」副島1尉が警備職の空曹に空港の消防車を用意させていると巡回に出している警備車両から連絡が入った。大浜とは空港から西の海岸線に出てそのまま南下した折り返し地点にしている海水浴場だ。そう言えば流石の副島1尉もフィリピン人義勇隊員への英語の説明で労力を消耗して巡回車両にまで銃撃を受けたA日新聞の取材ヘリコプターが福江空港=五島つばき空港に緊急着陸することを周知するのを忘れていた。
「それは漁船から銃撃を受けてこの空港に緊急着陸するA日新聞の取材ヘリだ。まだ飛んでいるんだな。火は吹いていないか」「はい、プロペラの付け根辺りから黒い煙を引いていますが火は見えません。それでもエンジン音におかしな雑音が混じっていて飛行は不安定になっています」警備職の空曹の報告は極めて適切だった。聞いているだけで半死半生でこちらに向かっているヘリコプターの姿が目に浮かぶようだ。ヘリコプターはローターの角度で揚力と推進力を同時に発生させるのでエンジンの回転数が落ちれば両方を失うことになる。その点が例えエンジンが停止しても主翼の揚力によるグライダー状態である程度は高度を維持できる固定翼機との違いだ。
「来たな。本当にエンジンが悲鳴を上げてるぞ」数分後、南風に乗って正常ではないエンジン音が聞こえ始め、間もなく黒い点が視界に入り、それが白地に赤の塗装の民間ヘリコプターになった。その間に消防車は滑走路の南エンドに移動してヘリコプターが着陸すれば可能な限り接近して放水を開始するように準備している。Cー130が着陸した時に水タンクと化学消火剤を満タンにして、操作を学習させたのが役に立った。
「ハイドCP(第15警戒隊指揮所のコールサイン=仮称)、こちら空港警備隊・副島1尉、間もなくヘリが着陸する。消防車はヘリに合わせて移動している」「ラージャ」副島1尉は消防車の後方で待機している警備隊のランドクルーザーから状況を報告したが、言い終わる前にヘリコプターが着陸して放水が始まった。
  1. 2024/03/19(火) 16:29:21|
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