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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ770

2000メートルの滑走路の中央に不時着したA日新聞の取材ヘリコプターは追走してきた消防車に消火剤をかけられて泡の海に埋没した。空港の消防車は運転席の上部と下部に取り付けてあるノズルから消火剤を噴射するので一般火災の消火のようにホースの展張などを必要としないから助かった。健軍駐屯地でのフィリピン人と台湾人義勇隊員の基本教育課程でも流石に消防訓練までは実施していないのだ。
「フリーズ」「ななな・・・何だ」「確かに日本人だな、手を上げろ」ヘリコプターのローターが止まり、エンジンから噴き出していた煙が消えたのを確認した副島1尉は泡をかき分けて機体に取りつき操縦席のドアを開けてパイロットに拳銃を突きつけた。最初に「動くな」を意味する英語で呼びかけたのは「国籍不明」と認識していることを理解させ、敵対的行動を執る必要性を現示するためだった。
「我々はA日新聞九州本社の者だ。取材中に銃撃を受けてヘリが損傷したから緊急着陸した」「エマージェンシーをコールしただろう」後席のドアを開けたフィリピン人義勇隊員も小銃を突きつけると記者が怒気を交えた口調で事情を説明してパイロットも同調した。しかし、副島1尉は冷ややかな薄笑いを浮かべて「ホールドアップ、手を上げろ」と告げた。それを聞いて義勇隊員たちも小銃を構え直した。
「確かにエマージェンシー・コールが入ったことは分屯基地から連絡を受けている。しかし、君たちがA日新聞の社員であることが確認できるまでは身柄を拘束する。仮に自衛隊や海上保安庁の防衛行動を妨害していることが発覚すれば逮捕する」実際、戦時では戦争法に空戦規則がないためエマージェンシー(緊急事態)をコール(宣言)して敵の基地に侵入して攻撃を加えることもあり得る戦術だ。その点、地上戦や海戦においては敵の人道的対応を利用して攻撃することは極めて重大な戦争犯罪になる。
3人は銃口を向けている義勇隊員たちが日本人ではないことに気づくと視線に殺気を帯びているように感じて大人しくヘリコプターから下りた。それでもカメラマンは「カメラとケースを自分で持つ」と言い張り、副島1尉が許可して威嚇発砲しようとした義勇隊員を鎮めた。そのまま3人は徒歩で滑走路を横切って空港ターミナルへ連行された。
「馬鹿な、我々は正当な取材活動をやっているだけだ」「その取材活動で戦闘空域に立ち入る正当な許可を受けているのか」「取材活動の自由は憲法21条が保障している。自衛隊に制限を加える権限はない」最初に取り調べを受けた記者は副島1尉の日本海での妨害行為の指摘に強く反論した。ただし、根拠にしている日本国憲法第21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定しているだけで報道の自由については裁判所が解釈した判例に過ぎない。
「無断で危険を冒してまで交戦空域に進入した目的は中国漁船を上陸可能な場所に誘導するためじゃあないのか。そうなれば利敵行為を働いた工作員として処置することになるな」「我々はあくまでも自衛隊の戦闘の実態を報道しようとしただけだ」「A日新聞とテレビA日はそれを報道しているのか。全国版の新聞とニュースは加倍派の政治資金の問題だけじゃあないか」「それは・・・」この指摘は記者自身も不満に思っている現実だった。別室で待たされているカメラマンは歩きながら監視の義勇隊員が日本語を理解できないと推理したのか「日本海で超望遠レンズを使って撮影した陸上自衛隊のヘリコプターが韓国の漁船を銃撃している写真を消去するべきか」と相談してきた。しかし、記者としては九州版にだけでも掲載しなければならない事実だった。
「君たちは中国がこの漁船に武装した兵士を乗せて日本の島を占領しようとしていることを知っているのか。すでに鹿児島県の下甑島では陸上自衛隊が100名前後殺害されている。現在も五島列島の無人になった島に上陸した中国軍と捜索している対馬警備隊が交戦している。多くの漁船は奄美群島へも向かっているらしい。それを阻止しようと懸命に努力している我々の姿を報道しないで何が報道の自由か」「自衛隊は放置すれば平和憲法を無視して勝手に戦争を始めるはずだ」「その戦争で真っ先に死ぬのは自衛隊だ。我々も戦後生まれなんだ。命は惜しいし、家族が愛おしい。何時までも戦前の亡霊に憑りつかれているんじゃない」副島1尉の反論に記者は黙り込んでしまった。

  1. 2024/03/20(水) 15:16:22|
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