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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ771

「自衛隊の戦闘を取材させて下さい」事情聴取の間にも第15警戒隊指揮所から戦況を知らせてくるので副島1尉は記者にも説明した。現段階では下甑島の南端の手打集落に上陸した中国軍を制圧するために高遊原分屯地=熊本空港からUHー1多用途ヘリコプターで追加派遣された第42即応機動連隊の後続部隊が集落の外れにある弓折牧場に到着した一方で五島列島では東側の集落で小数の漁船が発見された奈留島を捜索していた対馬警備隊が潜入していた1個小隊程度の中国兵を発見して各個撃破している。
「若いのに中々勇気があるな。ウチの義勇隊員たちと同じだ。その点、日本人は駄目だ。金を出せば防衛に貢献しているつもりになっている」日本国内では防衛出動が発令されない中で自衛隊が武力行使に対処していることをマスコミが徹底的に批判していたため国民の支持は低く、若い世代は無関心を決め込んでいた。それでも在日中国人が不法に密輸した大量の拳銃を使って暴動を起こすようになると自衛隊の治安出動を支持するようになり、ロシア軍の北海道への侵攻を受けて防衛出動の発令を求める世論が沸き上がった。しかし、国民の絶対多数が敗戦後生まれの世代のため戦争を現実として受け止める思考に欠け、自衛隊に参加して自ら命を賭けて祖国を守る戦意は発生していない。だから駐屯地や基地に寄付金を持ち寄ることで満足している。
1990年に始まった湾岸戦争で海部俊樹内閣は国際社会から多国籍軍への自衛隊の派遣を当然視されても平和憲法を理由に拒否して、見返りとして1228億8千万円もの戦費を拠出したが、同じことを祖国防衛の戦争でも繰り返しているのだ。
「我々も新潟でイギリス人の記者が戦場を取材してヨーロッパで日本人が知らない実態を報道された屈辱は真剣に受け止めています。だから新潟では民間放送や新聞社の若手記者たちが個人資格で現地に潜入して自衛隊に同行する許可を得ることに成功したんです」「その割に九州方面での戦闘を無視しているのはどう言う訳だ」「それは・・・東京の編集部が今の読者と視聴者、多くの日本人は自衛隊の行動に賛同するようになっているから勝ったことを報道すれば戦争を期待するようになる。我がA日新聞は戦前の過ちを繰り返すことはできないと禁じているんです。おそらく他社も同様でしょう」「そうか・・・」副島1尉は記者の表情に不満と疑問が漂っていることを見て第15警戒隊指揮所に奈留島の取材許可を求めようと考えた。
「隊長、ワイナリーから数名が接近しています」その時、事情聴取をしている小部屋のドアを開けて警備職の士長が声をかけた。士長は言い終わってから背中を向けて座っている記者に気づいて困惑したが手遅れだった。
五島コンカナ王国ワイナリー・リゾートは空港の西側のなだらかな丘の中腹にあり、ゴルフ場と隣接している。目立つ漁港でなくても海岸線から上陸すれば徒歩で接近するのは容易だ。やはり警備する側の人出不足は十分に理解しているようだ。
「誰何(すいか)はしたのか」「滑走路のヘリを監視している山元士長がハンド・マイクで呼びかけましたが草むらに隠れました」「海岸線から上陸したな」副島1尉の独り言に士長は緊張した顔をしたが記者は興味津々と目に妙な光を点灯した。
「クレイモアは何番だ」「14番から22番の間が通過点になると思います」「そうか・・・屋上の日高3曹はクレイモアの作動準備、下黒石2曹は義勇隊員4名を人選してランクルで待機。クレイモアが作動すればそこに急行して制圧させる」「はい、ランクルに5名を乗せて待機させる・・・」士長は姿勢を正すと指示した内容を復唱して回れ右すると大股に出ていった。ドアを閉め忘れていた。
「わざわざ奈留島へ行かなくてもここで戦場取材ができそうだな」「クレイモアって手動式の地雷ですよね。それを使うんですか」「この空港の警備を任務にしている以上、外国軍の兵隊に侵入させる訳にはいかないんだ。君たちの取材は妨げないが我々の活動を邪魔すれば敵と看做す可能性がある。何よりも身の安全は保障しない。それが嫌ならターミナル内のコンクリート壁の部屋に籠っていることだ。100メートル以内からの銃撃だとコンクリートブロックくらいは貫通してしまうから床に伏せていた方が間違いないな」副島1尉の懇切丁寧な説明に記者はユックリうなずいた。
  1. 2024/03/21(木) 16:37:49|
  2. 夜の連続小説9
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