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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ777

その夜は東部方面隊の指揮所が設置されている郊外の中学校の校舎に宿泊したが、茶山元3佐たち船岡・工兵OB会は第10施設群の宿営地で久しぶりに業務用天幕に簡易ベッド、寝袋だったらしい。昔の私なら「羨ましい」と思うところだが陸上幕僚監部法務官室勤務になって以来、オランダの国際刑事裁判所で定年退官するまで事務室勤めが続いたので、現地調査で野営すると帰宅後にはグッタリしていた。そんな私の世話を焼きながら梢は「身体が航空自衛隊に戻った」と喜んでいたが野性味を消失したのは確かだ。
「明日の慰霊ですが予定通り、県庁の跡地で良いですね」「瓦礫の撤去はかなり進んでいるそうだから市内に展開している全部隊が集合しても大丈夫だろう」「長岡から第5施設群も来るようです」夜、1個分隊程度の坊主と雇われ神職、牧師に若干名の東部方面隊の幕領が集まって座談会を開いたが、神職にはお神酒(みき)でも坊主には浄土真宗を除けば不酤酒戒があり、牧師もイエスの血とされている赤葡萄酒以外のアルコホールは禁止されているそうなので缶コーヒーの茶話会になった。
「新潟市内では自衛官も多数戦死していますがロシア軍と徴用されていた北朝鮮軍の兵士もかなりの人数になります」ここで東部方面隊の幕領が業務に必要な情報を提供した。新潟市内では捜索中の普通科部隊の指揮官や通信員がロシア軍の狙撃によって射殺され、住宅街では対人地雷やブービー・トラップで爆死しただけでなく制圧後も新型対人地雷・POM3の排除を担当した施設大隊の隊員たちが犠牲になった。
「柏崎や長岡でもロシア軍の慰霊は浅見牧師にお願いしたが北朝鮮となると話は別だな」浅見牧師は元航空自衛官で新型機の導入で機体の製造メーカーの整備講習に留学したのだが、親しくなったアメリカ空軍の下士官と家族が毎週日曜日に通っているバプテスト派の教会のミサに参加する間に信仰心が芽生えて帰国前に現地で洗礼を受けたそうだ。日本でもアメリカ人の牧師の教会に通って教えを受け、定年後にはアメリカの神学校に留学して牧師の資格を取り、帰国するアメリカ人牧師の教会を継いでいる。
「ロシア人のロシア正教も聖書は一緒でしょうからカミの加護を願って慰霊を勤めていますが、儀礼の作法や讃美歌などは我々バプテストと違うはずです」「確かにカソリックの讃美歌は原爆の日や行く年来る年の長崎の教会の中継で聞くことがあるけど牧師が唄う曲は違うようだね」「それを言ったら佛教の経文だって宗派でバラバラだろう」「同じお経でも節回しが違ったりするから困ったものだ」浅見牧師の宗教者として真摯な問題提起を坊主たちが単なる内輪ネタに墜としてしまった。坊主たちも私や蓮床和尚と訓練と趣味の登山が山岳信仰に発展して新義真言宗に入った修験者を除けば寺の息子に生まれて父親が元気な間の喰い扶持として自衛隊で勤務しながら裏技で住職の資格を取った跡取り坊主ばかりなので宗教的な問題意識を期待する方が間違っている。
「北朝鮮の兵隊の慰霊は神主さんに頼むことにしよう」「えッ、どうして私が」唐突な私の指示に雇われ神職は呆気にとられたように口を開けたままこちらを見た。坊主たちも真意を測りかねているはずだが、場の空気に任せるのが職業坊主の身の処し方なので穏やかな表情を作って私の補足説明を待っていた。
「北朝鮮は歴代国王が死んでも宗教儀礼は行わなかった。つまり『宗教は阿片』と否定したマルクス主義の宗教観を国家理念にしているんだ。そんな異郷の地で怨念を抱いて死んだ人間たちの魂魄は佛教の経典やキリスト教の聖書に耳を貸すはずがない。ならば神道式に祓い清めるだけの方が素直に受け入れるように思うだがどうだろう」「確かに朝鮮半島では儒教が精神の根底にありますから儒教を戒律に替わる道徳として請け売りしている神道の方が納得するかも知れませんね」私の見解に蓮床和尚が同調して浅見牧師もうなずいた。ただ雇われ神職は妙に緊張した顔で私を睨みつけていた。
「下関の赤間神宮は阿弥陀寺と言う寺を明治の廃佛毀釋で掠奪したんだ。つまり七盛塚の平家の怨霊の供養も引き受けたんだろう。化けて出れば除霊はしてやるから頑張ってくれ」「確かに作業現場では北朝鮮軍の亡霊たちが夜な夜な現れるので不寝番が怯えてしまって困っていました。よろしくお願いします」2佐の幕領に頼まれて元准尉の雇われ神職の緊張度は数倍強化された。ただし、私は意地悪で指示した訳ではない。
  1. 2024/03/27(水) 15:56:41|
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