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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ781

村上市での慰霊法要にはすでに撤退している東北方面隊の混成戦闘団の指揮官だった第6師団の副師団長と参加した各部隊から1個中隊が参列していた。東北方面隊の戦闘混成団は第6師団と北海道の戦車部隊を加えた編成だったので遠路はるばるだが信仰心が篤い東北人だけに真剣な面持ちで参加していた。中でも東北地区太平洋地震の災害派遣で民生党政権の杖野官房長官から禁止された合掌や念佛を実施させると涙声で唱える隊員が続出した。余程無念だったようだ。
「ウウウ・・・ドワジュセヨ(助けてくれ)・・・」帰路は磐越自動車道で会津若松を通って東北自動車道を南下しているが職業坊主たちは「厄落とし」と称して途中で寄った会津若松のパーキングエリアで買った地酒を飲んで好い気分になっている。ところが少し離れた席に座っている雇われ神職は疲れたようでトイレから戻ると眠りに落ち、間もなく酷くうなされ始めた。それを職業坊主たちは冷笑しながら酒席の話題している。
「何を言っているんだ。よく判らん方言だな」「アイツが務めている神社は会津藩を賊徒にしているから白虎隊の祟りだろう」「日本語じゃあないみたいだ」観光バスの中央付近に陣取る職業坊主たちの会話を前方の席で聞きながら通路を挟んで隣りに座っている蓮床和尚は顔を近づけて声をかけてきた。
「朝鮮語のようですね。まさか北朝鮮軍の死霊に憑りつかれたのでは」「・・・ジュキグォヤ(殺すぞ)・・・ヨンクセオジョー(許してくれ)・・・オンマ(お母さん)」確かに朝鮮語でも韓国映画の殺戮シーンで聞くことがある台詞を吐いている。そうなると蓮床和尚が言う通り新潟市内で戦死した北朝鮮軍の兵士の死霊に憑依された可能性が高い。この雇われ神職は戦死した神道の自衛官の慰霊をするために参加したようで、まさか恨みを抱いて死んだ北朝鮮軍の兵士を任されるとは思っていなかった。すると酔いが回って声量が大きくなった職業坊主たちの雑談が耳に障り始めた。
「織田無道は臨済宗だっただろう。だったらお前が除霊してやれよ」「アイツは厚木市内の建長寺派の寺の住職だったはずだぞ」「それも檀家千軒の大寺らしいな。羨ましい」「それでも北陸の密教禅大本山の住職にもなったはずだ・・・」曹洞宗の坊主たちに攻められて1人だけ参加している臨済宗の僧侶は小声で反論した。
1990年代にテレビのバラエティー番組で「霊能者」として人気を博した織田無道はタレントとして経歴を明かしていなかったのでどこで修行したのかは不明だが、檀家数が多い割に無住だった厚木市内の古刹の住職になって霊能者としてはその肩書で売り出していた。その後、石川県の温泉リゾートが非宗教法人の寺院として建設した観光施設の住職になったが従業員の給与不払いなどで民事告発されている。
「大丈夫ですかね。私が和尚と2人で念佛を唱えた方が良いのでは」間で騒いでいる職業坊主たちの雑談を通して聞こえてくる雇われ神職の朝鮮語の呻き声に蓮床和尚は不安そうに声をかけてきた。運転手も頻りにルーム・ミラーで確認しているのが分かる。
「ワシが高校生の頃、部屋の隅に若い女の子の幽霊が立つようになったんだ。そこで小坊主をしていた寺の住職に相談すると『中途半端な除霊はかえって他の死霊を呼び集めてしまう。その女の子が諦めて消えるまで清浄に戒律を保った生活をしながら待つことだ』と言われたんだ。正式に神社に務めている神職が憑依されるほど強い死霊となると危険だな」本当は師僧には「お前が坊主になったら教えてやる」と言われて得度を受けてから修行の度合いを見極めながら除霊の勤経と作法を教えられている。
「それでは私が」すると職業坊主たちと私や蓮床和尚の間に座っている新義真言宗の修験者が通路を歩いて来て声をかけた。その表情には気負いや不安はなく、やり慣れた通常の業務を請け負う職業人のような風情があった。
「それでも水や塩がないだろう。香は角香炉で焚くにしても浄めの水と塩がなければ・・・」「和尚は随分と詳しいですね」「一応は坊主の常識として・・・な」私も北キボールPKOで3人を殺害して刑事被告人になって以来、無罪になって釈放されてからは除霊について研究して師僧から習った知識を深化させている。それが国際刑事裁判所の検察官として現地調査に赴いた大量殺戮の現場で大いに役に立ったのだ。
  1. 2024/03/31(日) 14:29:14|
  2. 夜の連続小説9
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