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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ783

北朝鮮軍の戦死者の死霊に憑依された雇われ神主は観光バスが市ヶ谷地区に到着して意識は戻ったものの思うように身動きできず衛生隊の医官の診断を受けた。そこで私と蓮床和尚が事情を説明しても医官が受け付けるはずがなく近くの病院に検査入院させられた。そこでも精神科ではなく内科だったので突発性の発作と考えているようだった。
「今回は裏方に回ったのね」「蓮床和尚も納所(なっしょ=雇われ坊主)として働いているから業界のルールに逆らえなかったんだ」自宅に帰ると梢がニュースで放送していた新潟市の戦没者慰霊法要の中継を録画しておいてくれた。私が佛間の内佛に阿弥陀如来根本陀羅尼と念佛を唱えて戻ると梢がリモコンで再生した。
「だからお葬式ぽくなったんだね」確かに導師を務めた曹洞宗の大寺院の住職は私を司会、修験者は太鼓、蓮床和尚は裏方にして除外すると曹洞宗と臨済宗に浄土真宗と日蓮宗の同業者を集めて式次第を決めた。そのため妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈を選んだことに始まり、儀式としての所作や回向まで曹洞宗の葬儀を準用していた。
葬式なら葬式として死者を納得させてあの世へ旅立させる引導を渡してくれれば文句はないが檀家相手の葬送業務式だったので今回の結果を招いた。尤も被害者の雇われ神職も戦没者の慰霊施設に務めている割には軍神・英霊の加護がなかった。所詮は同胞を立場で差別して愧じない戦死者を神格化するためだけの軍事施設なのだ。
「12人も行ったのね」「それでも観光バスだったからガラガラだったよ」蓮床和尚としては私と2人で念佛を唱えて回るつもりだったが打診を受けた陸上幕僚監部監理部の総務幕領が妙に張り切ってしまって首都圏の寺のOBの坊主を調べて連絡を取り、宗教を偏らせないように九段の神社で勤務している雇われ神職と静岡県の教会の牧師にも声をかけた。一方、元曹長のレンジャー修験者は怨敵降伏(おんてきごうぶく)を祈願して全国の霊山を巡っている中で噂を聞いて蓮床和尚を訪ねて来たらしい。
「宗教的な功徳に自信はないけど自衛隊のOBが宗教に則った慰霊行事を実施した実績を作ったことは良かった」「死霊がついてきてしまっては心配よね」梢には病院に寄って帰宅が遅くなることは連絡した。そこでバスの車内での顛末を説明したが、バスの運転手は修験者が気合を入れた瞬間に私が目撃した赤黒い影がサイドミラーに映り、飛び散ったのを見たと言っていた。それでも葬儀のように玄関前で塩を背中に振りかけるようなことはしなかったのは私が死霊に憑りつかれることはないと信じているのだ。
「モリヤ、ニュースを見たぞ。お前は声だけだったな」夕食を終えて横田基地一周の散歩に出ると珍しく私のスマートホンが鳴った。着信音はラベルのボレロなので第三者、出ると熊本の山中区隊長だった。山中区隊長の指摘通り梢が録画していたニュースでも、司会者の私が儀式を説明する声が入って導師が席を立って長机に歩み寄り、香炉で焼香する光景が映っていた。本当は身軽な作務衣を着ているのだから素早く移動すれば良いのだが、購入価格を車の値段で表現する袈裟や法衣を着ている時のように重々しく歩を進め、高級そうな高い音を立てる数珠を揉み、スローモーションのように深々と合掌低頭(がっしょうていず)した。しかし、ニュースで見るとそれが儀式の品格を高めているように感じるから癪に障る。やはりあれが大寺院の住職の演技力なのだ。
「あの儀式はお前が手配したのか」「いいえ、準備したのは元3等海佐の坊さんです」「そうか・・・」私の答えが当てを外したのか山中区隊長は黙ってしまった。歩きながら黙った相手の次の言葉を待つのは歩調が取りにくい。
「実はウチの息子が下甑(下甑島)にいるんだが、中国の漁船で兵隊が上陸して42連(第42即応機動連隊)と戦闘になって数百人が死んだんだ。そこで・・・」「同じように慰霊法要を厳修(ごんしゅう=荘厳に儀式と勤める)したいと言うことですね」「ゴンシューって何だ。難しい言葉を使うな」「失礼しました。専門用語でした。実施したいということですね」「それで良か」話は多少混乱したが趣旨は分かった。
「OBの坊主と牧師を探して『戦没者を慰霊したい』って自衛隊に申し入れさせるんです。牧師が入っていた方がマスコミは大人しくします。後はプロに任せておけば大丈夫でしょう」「それは隊友会の仕事ばい。お前は現場検証に来んねェ」質問が勧誘になった。
  1. 2024/04/02(火) 15:27:25|
  2. 夜の連続小説9
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