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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ802

パパパーン、「何だ」「5.56ミリNATO弾ですね」その時、海水浴場から尾浦の集落に向かう海岸線の道路の先から短連射の銃声が聞こえてきた。本部中隊長は上陸すると尾浦の集落に情報小隊の斥候を出したので敵と遭遇したのかも知れない。しかし、陸上自衛隊の斥候は銃声で存在を暴露することになる発砲は極力避けるのが基本だ。発砲するのは至近距離で敵と遭遇した場合だが斥候のプロの情報小隊員にはあり得ない。
「韓国軍が持っているらしいHK416も5.56ミリNATO弾ですからどちらが発砲したのか判りません」「そうだな・・・どちらにても警戒を厳にしろ」「わかりました」警備隊長の指示を受けて本部中隊長は手に持っている小型無線で砂浜でゴムボートを待っている隊員たちに伝えた。とは言え砂浜の隊員たちにも銃声は聞こえたので分隊長の指揮で膝射ちの姿勢になって銃口を周囲に向けていた。
「ホンチュー01、こちらレコン02、送れ」「こちらホンチュー01、送れ」そこに斥候から本部中隊長に無線連絡が入った。銃声が聞こえてからやや間が空いているのは敵からの攻撃を受ける危険性が継続していたのかも知れない。
「こちらレコン02、道路脇の階段を登って志々岐神社を確認したところ境内からゴムボートを狙っている敵2名を発見しました。すでに射程内に入っているようなので独断で発砲して射殺しました」「だから短連射だったんだな」「はい、2名を同時に射殺しました。その後、境内を捜索して他に敵がいないことが確認できたので報告しました」「わかった。ご苦労」これで状況は判った。海上自衛隊特別警備隊の斥候によると対馬を占領している韓国軍守備隊では正規軍の海軍特殊戦旅団は言うまでもなく難敵だが、案内人として動員された移住者は敵対意識が希薄なのに対して対馬奪還に興奮して志願してきた義勇兵は士気が高く遭遇すれば間違いなく戦闘になると説明を受けている。狙撃するだけの技量を有するのはおそらく義勇兵だろう。
「レコン01、こちらホンチュー01、貴官たちの任務を斥候から偵察に変更する。したがって敵に遭遇すれば即座に発砲せよ」「それは威力偵察ではなくて会敵戦闘ですね」「その通り」本部中隊長の指示に斥候長はプロらしい確認をしてきた。
威力偵察は強行偵察とも言うが敵の存在や規模、行動を確認するためにあえて存在を暴露して攻撃させ、挑発的に武器を使用して反撃を誘う手法を指す。当然、敵を壊滅させることが目的ではないので武器の使用は限定される。
「ゴムボート第1陣、着岸しました。人員器材異常なし。直ちにしんしゅう丸に引き返して第2陣を運びます」「了解」本部中隊長が情報小隊先任陸曹の斥候長に指示を与え終わると無線機の通話を途切れさせる暇(いとま)もなく海岸から報告が入った。斥候が先制的に銃撃を加えなければ数隻のゴムボートは命中弾を受けて沖で沈没していたはずだ。乗員たちは完全武装の上に防弾チョッキと救命胴衣を重ね着しているので半長靴では泳ぎが妨げられ、浮力も十分には確保できなかった。かなりの者が溺れたはずだ。
「やばいなァ、大半の奴が木に引っ掛かっかるぞ。椎茸畑があるって言っても森の中じゃあないか」最後に飛び出した降下長はパラシュートが開いて落下速度が落ちると先に下りた隊員たちが山岳地帯に流されていくのを見て独り言を呟いた。
今日はこの空域には珍しく無風に近い降下日和だが地図上の確認では一面に椎茸畑が広がっているはずの上島は全面が森林に覆われていて着地する前にバラシュートや紐(コード)が枝に引っ掛かるのは間違いない。引っ掛かり方と位置によっては高い枝から落ちるような形になり、負傷を免れられないはずだ。
「あッ、銃閃光だ。やはり攻撃してくる義勇兵が配置されているんだな」さらに高度が下がってくると市街地の建物の屋上でオレンジ色の閃光が点滅したのが見えてきた。空挺隊員にとっても最も恐ろしい銃撃が加えられたのだ。
「蒼より青き大空」を降下中は身を隠す場所や手段がなく着地時の衝撃を軽減するため防弾チョッキを着用することもできない。つまり降下してくる標的にならざるを得ないのだ。1983年10月25日のグレナダ侵攻でアメリカ軍は空挺部隊を本格投入したが、地上からの銃撃によって想定外の犠牲を払うことになった。
  1. 2024/04/24(水) 15:33:18|
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